災害大国の日本 トイレ、キッチン、ベッド――避難所のTKBの改善が命を救う #災害に備える
Bのベッドは、段ボールベッドだ。6つの段ボールを並べて幅90センチ、長さ189センチのベッドを作る。それぞれの段ボールの中にはさらに4つの段ボールが入り、人が乗ってもつぶれない強度が保たれている。長野市内にある段ボール工場では、台風19号の時に600個の段ボールベッドを供給したという。担当者は利点をこう語る。 「段ボールベッドは高さも40センチあるので、埃などの多い床からも離れ、衛生的です。また、寒さなど気温の影響も和らげることができます」 ただ問題は、段ボールベッドが避難所に供給されるまで時間がかかっていたことだ。台風19号の時は3日以上かかった。そのため、県は供給体制の強化に取り組んでいる。 「段ボールベッドに関しては、県が東日本段ボール工業組合(東京)と2020年6月、災害協定を結びました。この協定は、災害が発生した場合に必要な数の段ボールベッドを優先的に作ってもらい、迅速に避難所に届けてもらうことが目的です。大規模災害時には、この協定や備蓄により円滑に段ボールベッドが確保できる体制を目指しています」(前出・馬場さん)
ありえない「雑魚寝」の現状
こうした県の取り組みで、避難所環境の改善は進んでいるように映る。しかし、医師で避難所の問題に詳しい新潟大学大学院の榛沢和彦特任教授はまだ不十分だと語る。 「大事なのは備蓄です。物がないと何もできないというのが避難所での基本的な考えです。非常時に備え、人口の0.5%分の備蓄は最低限必要です」 榛沢氏は2012年のイタリア北部地震の直後、調査に訪れた。現地の備蓄基地は飛行場のような広大な敷地に1万人分のテント、キッチンコンテナ、コンテナトイレなどあらゆる避難所用品が備蓄されていたという。イタリア国内には同規模の備蓄基地が3カ所あり、それとは別に各州、各市にも備蓄倉庫がある。被災地はまず市内の備蓄で48時間を耐えしのぎ、その後、備蓄基地から大規模な支援を受けるというシステムが構築されていた。 「一方、災害大国である日本は、避難所で生活するための備蓄がほとんどない。欧米の避難所担当者にこのことを話すと『その状態では、被災者に対して避難後のケアが何もできないでしょう』と言われてしまいます。日本は決定的に備蓄が足りません」