『源氏物語』冒頭に登場の桐壺更衣。激しいいじめで衰弱するも、宮中で亡くなることを許されず…紫式部がその生涯に込めた<物語を貫くテーマ>とは
◆公の定め 桐壺更衣はついに病に倒れ、日に日に衰弱していきます。 桐壺更衣は、療養のため実家に帰ることを願い出ますが、帝は別れがつらく、それを許しませんでした。 けれども、いつまでもためらってはいられません。更衣の容体は、ほんとうに差し迫ったものだったからです。 そのうえ、神聖な宮中にあっては死は忌むべきものとされ、帝の妻であっても、宮中で亡くなることは許されませんでした。それが公(おおやけ)の定めなのでした。 そのため、たとえ自分の意思に反してでも、帝は、更衣を宮中から退出させなければならないのでした。
◆『源氏物語』が語りたかったこと 帝は「わたしを残して死への道を行くことはありませんね」と、更衣に語りかけます。 それに対して語ったのが、更衣の「わたしがいきたいのは、命の道です」でした。 「いきたい」には、「行きたい」と「生きたい」が重ねられています。 桐壺更衣の人生は、辛く苦しいことの連続だったでしょう。 けれども、生きるのがこれほど辛いのなら、いっそ死んで楽になりたいというのではなく、それでもなお生きたいと、更衣は言い残して亡くなることになります。 更衣は帝との間に、源氏というこの物語の主人公を産み、亡くなります。まるで源氏を産み、亡くなるために、登場してきたようです。 それでもなお、更衣は生きることを切望して物語から退場します。 『源氏物語』は、生きることを強く願い、心に誓うことを冒頭に記しました。それがこの物語が追い求める、大切なテーマだったからです。 ※本稿は、『美しい原文で読む-源氏物語の恋のことば100』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
松井健児
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