品質不正の防止に向けて/ステルスマーケティング規制に関する広告審査のポイントと危機管理的視点の重要性-同規制違反に対する最初の措置命令事案も踏まえて-
3 最近の危機管理・コンプライアンスに係るトピックについて
危機管理又はコンプライアンスの観点から、重要と思われるトピックを以下のとおり取りまとめましたので、ご参照ください。 なお、個別の案件につきましては、当事務所が関与しているものもありますため、一切掲載を控えさせていただいております。 【2024年5月17日】 日本監査役協会、「第4回適時調査 内部通報制度の整備状況」を公表 https://www.kansa.or.jp/support/library/post-10587/ 日本監査役協会は、2024年5月17日、7369社を対象とした内部通報制度の整備状況に関する調査結果を公表しました(回答社数は3058社)。例えば、以下の結果が公表されています。 ●公益通報者保護制度に対応している措置について「内部公益通報受付窓口の設置」と回答した会社の割合は全体の97%(3058社中2963社)、従業員301名以上の会社の99%(1881社中1861社)であり、受付窓口の整備は相当進んでいること。 ●社内外での内部通報窓口の設置状況について「社内・社外どちらにも設置している」を選択した会社の割合が81%(2963社中2391社)であったこと。 ●内部通報の年間平均件数については、0件を選択した会社の割合が全体の22%(2963社中660社)、従業員301名以上の会社の9%(1861社中160社)であり、内部通報の運用の実効性に課題があるケースも含まれていることが考えられること。 ●公益通報者保護制度の社内での周知方法(複数回答可)については、「メールやイントラネットでの周知」を選択した会社の割合が70%(2204社中1536社)で最も多く、次いで、「職位や経験年数に応じた研修等」を選択した会社の割合が54%(同1188社)であり、「携行カードやしおりの配布」を選択した会社(割合は24%。同536社)、「周知度アンケート調査の実施」を選択した会社(割合は21%。同456社)もいたこと。 【2024年5月27日】 消費者庁設置の有識者会議、機能性表示食品の制度見直しの提言案を取りまとめ https://www.caa.go.jp/notice/entry/038086/ 消費者庁は、2024年5月27日、同庁が設置した有識者会議である「機能性表示食品を巡る検討会」がまとめた、機能性表示食品の制度見直しに関する報告書を公表しました。 本報告書は、(1)機能性表示食品の健康被害について、医師が製品に起因する疑いを否定できない場合は行政機関への報告を求めること、(2)製造管理及び品質管理等の基準について、GMP(Good Manufacturing Practiceの略称であり、医薬品の製造管理や品質管理の基準を指します。)等を参考に厳格化した基準を設けること、(3)機能性表示食品のパッケージ表示について、特定保健用食品と誤認されることがないよう改善を求めること等を提言しています。 【2024年5月28日】 金融庁、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案を公表 https://www.fsa.go.jp/news/r5/shouken/20240528/20240528.html 金融庁は、2024年5月28日、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。金融商品取引法上、一定の要件を満たす持株会・持投資口会については、集団投資スキーム持分やインサイダー取引規制等の適用除外が認められており、この内閣府令案は、その適用除外の要件に関して、下記の改正を行うものです。 ●適用除外の一つである、持株会による買付けについて、各役員、各従業員の「一回当たりの拠出金額」の要件を100万円未満から200万円未満に引き上げ ●適用除外の一つである、上場会社等の「関係会社」の拡大持株会※16による買付けについて、「関係会社」に当たる会社の基準を、形式基準(議決権保有割合)から実質基準(実質的な支配関係の有無)に変更 ※16 非上場会社の従業員が、当該非上場会社と密接な関係を有する上場会社の株式の取得を目的として運営する組織で、従業員持株会以外のものをいいます。 ●上記の適用除外について、拡大持株会に参加できる者に発行会社の「関係会社」の役員を追加 ●適用除外の一つである、資産運用会社又はその特定関係法人の持投資口会※17による買付けについて、持投資口会に参加できる者に「特定関係法人」の子会社の役員・従業員を追加 ※17 一定の組織における役員又は従業員が、投資法人の投資口の取得を目的として運営する組織をいいます。 【2024年5月31日】 AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ、報告書を公表 https://www.digital.go.jp/councils/mobility-subworking-group/1fd724f2-4206-4998-a4c0-60395fd0fa95 AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(以下「本WG」といいます。)は、デジタル庁において、自動運転に関する事故等が発生した場合の責任制度その他の社会的ルールについて、論点の整理及び目指すべき方向性を検討することを目的として立ち上げられたワーキンググループです。 本WGは、2024年5月31日、これまでの検討結果等をまとめた報告書を公表しました。本報告書では、例えば、安全な自動運転車の普及を加速するために、事故の原因究明及び再発防止措置を検討する事故調査機関の設置を検討するよう提言がなされています。 【2024年6月6日】 公取委、令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況を公表 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/240606_buttokuchousakekka.html 公正取引委員会は、2024年6月6日、「令和5年度における荷主と物流事業者との取引に関する調査結果及び優越的地位の濫用事案の処理状況について」を公表しました。 公正取引委員会は、令和5年度において、荷主30,000名及び物流事業者40,000名に対して書面調査を実施し、その書面調査の結果を踏まえ、不当に取引価格を据え置く行為等が疑われる事案について、荷主121名に対する立入調査を実施しました。また、公正取引委員会は、書面調査及び立入調査の結果を踏まえ、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった荷主573名に対し、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付しました。 令和5年度に注意喚起文書を送付した荷主の業種は、「協同組合(主に農産物、林産物及び水産物の販売事業等を営むもの)」、「食料品製造業」、「飲食料品卸売業」の順に多く、問題となる行為類型は、「買いたたき」、「代金の減額」、「代金の支払遅延」の順に多くなっていました。例えば、「買いたたき」については、「労務費の上昇に伴う運賃引上げを求められた場合に、理由を回答することなく運賃を据え置いたり、自助努力で解決すべき問題であるとして運賃の引上げ協議を拒否した」事案が見られました。 公正取引委員会は、令和5年度においては、荷主と物流事業者との取引に関する優越的地位の濫用事案について、優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして、17件の注意(1件の注意で複数の行為類型が対象となっている場合があり、行為類型の内訳数の合計は33件)を行いました。注意対象となった行為類型は、「不当な給付内容の変更及びやり直し」(12件)、「代金の減額」(8件)、「不当な経済上の利益の提供要請」(7件)の順に多くなっております。 【2024年6月13日】 公正取引委員会、「独占禁止法に関する相談事例集(令和5年度)」を公表 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/jun/240613.html 公正取引委員会は、2024年6月13日、「独占禁止法に関する相談事例集(令和5年度)」を公表しました。同相談事例集には、例えば、以下の事例が掲載されています。 (1)「輸送用機械メーカー4社が、共同して技術研究組合を設立し、当該組合において二酸化炭素を排出しない燃料を使用する新技術に関する基礎研究を共同して実施し、研究成果を共有すること」(問題なし) (2)「加工食品メーカー4社が、物流の2024年問題の解消に向けて、小売業者に対する商品の配送において物流事業者が納品場所で行っている商品の開梱、値札付け作業、店頭での商品陳列等の附帯作業の見直しに取り組むことを共同で宣言する行為」(問題なし) (3)「燃料費の高騰等による利益率の低下や新型コロナウイルスの感染拡大の影響等による利用率の低下を背景として、旅客輸送会社2社が、共同で、特定の路線についての運行時刻等の調整を行うこと、広告活動を行うこと及び必要な範囲の情報を共有することを内容とする業務提携を行うこと」(問題なし) (4)「建設業者等により構成される連合会が、建設業における時間外労働の上限規制の適用に対応するため、週休二日を前提とした工期と費用に基づく初回の見積書を提出すること等を決定した上で発注者に対し示すとともに、対外的に宣言すること」(問題なし) (5)「機械部品のメーカーを会員とする団体が、会員の価格転嫁の交渉を促すため、コスト上昇分を価格転嫁するための取引先に対する要請額の算出手順の例を公表すること」(問題なし) 【2024年6月14日】 金融庁、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」を公表 https://www.fsa.go.jp/news/r5/shouken/20240614-2/20240614.html 上場会社等の業務執行決定機関による、株式発行・自己株式処分・新株予約権発行(以下「株式発行等」といいます。)に係る決定がインサイダー取引規制上の「重要事実」から除外される基準(軽微基準)は、払込金額の総額が1億円未満であると見込まれることとされていますが(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49条1項1号イ)、今般、金融庁は、この軽微基準を改正する、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」を公表しました。 本改正案は、上場会社等の業務執行決定機関による株式報酬としての株式発行等に係る決定について、以下の軽微基準を追加することを内容としています。 (1)報酬として割り当てられる当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の総数が、割当日の属する事業年度の直前の事業年度の末日又は株式の併合、株式の分割若しくは株式無償割当てがその効力を生ずる日のうち最も遅い日における発行済み株式数の1%未満と見込まれること、又は (2)割当日における当該株式及び当該新株予約権の目的である株式の価額の総額が1億円未満と見込まれること 【2024年6月18日】 犯罪対策閣僚会議、「国民を詐欺から守るための総合対策」を公表 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/index.html 政府の犯罪対策閣僚会議は、2024年6月18日、SNS上のなりすまし広告への対策として、SNS事業者に対して、自社プラットフォームに掲載される広告の事前審査の強化等を要請することを内容とする「国民を詐欺から守るための総合対策」を策定、公表しました。具体的には、広告出稿前に事前審査基準の策定・公表、審査体制の整備、クローズドチャットを遷移先として設定している広告は原則として採用しないなど、SNS型投資詐欺の手口・実態やなりすまされた者等からの通報により得られた情報を踏まえた広告の事前審査の強化、広告出稿者の本人確認の強化等を要請するとしています。
木目田 裕,宮本 聡,有松 晶,西田 朝輝,梅澤 周平,澤井 雅登