無名の3番手PGからの下剋上 川崎の新星・小針幸也、バスケ人生の転機になった8年前の1試合
「プロになりたい」とは考えていなかった
本人の言葉どおり、この試合をきっかけに小針は一躍神奈川のトッププレーヤーとして認知され、上級生の引退後は不動の先発PGとして全国大会も経験した。 ただ、自身の今後の行く末については何のイメージも描いていなかったという。 「『プロになりたい』みたいなことは考えていなかったと思います。むしろ就職とかも何も考えず、『とりあえず大学でバスケしよう』くらいじゃないですかね。推薦とかも来ないと思っていたので、普通に大学受験をしようと思っていたら、国体チームで練習試合をした神奈川大から声がかかって。(県トップレベルの)他の選手に比べたら、進路が決まるのはだいぶ遅かったと思います」 神奈川大では1年時からプレータイムを獲得したが、勝ち星に恵まれた大学4年間とは言えなかった。秋の関東1部リーグ戦は毎年2部降格圏内を行ったり来たり。キャプテンを務めた4年時は、リーグ再編による特例で降格はなかったものの最下位だった。 大学トップカテゴリーでバスケットボールに打ち込み、卒業後も競技を続けたいと考える大学生は、遅くとも4年生の春頃には自身の身の振りを決めなくてはならない。言わずもがな、企業の求人活動があらかた終わる時期だからだ。 プロを志望する選手は当然、就職活動はしない。それ以外の者は実業団チームを所有する企業の採用を目指すことになる。小針は早くから後者の道に進む自分を想像し、実業団の強豪・JR東日本秋田からオファーを受けた時は二つ返事で快諾した。 「神大の先輩たちはプロより実業団に行く人が多かったので、自分もそうなんだろうなと思っていました。プロに行けたら……という思いもほんのりはあったんですけど、チームの成績も良くなかったし来ないだろうなと。前から『JRに行けたらすげえよ』みたいな話を聞いていたので、話が来た時は即決でしたね」 (後編へ続く) ■小針幸也(こばり・こうや) 1999年5月18日生まれ、神奈川県出身。抜群のスピードを誇るPGとして頭角を現すと、桐光学園高校ではインターハイに出場。神奈川大学でも司令塔として活躍した。卒業後は東北リーグ所属の実業団であるJR東日本秋田ペッカーズに入団したが、2023年2月に当時B2の長崎ヴェルカに加入。Bリーグでのキャリアをスタートさせると、B1に昇格した2023-24シーズンは終盤にスタメンに定着した。川崎ブレイブサンダースへ今季期限付き移籍し、さらなる飛躍が期待されている。
青木 美帆 / Miho Aoki