朝ドラ『虎に翼』男爵夫人・桜川涼子の戦後の状況は? 日本国憲法が定める「法の下の平等」で消えた華族たち
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第10週「女の知恵は鼻の先?」がスタートした。終戦後、日本国憲法が定める「法の下の平等」に希望を見出した寅子(演:伊藤沙莉)は、家族を養うためにも裁判官として就職することを志す。その寅子が感涙した日本国憲法第14条では、かつて共に学んだ桜川涼子(演:桜井ユキ)のその後にも関わる条項が存在した。今回は戦後の華族について解説する。 ■終戦後に厳しい状況に追い込まれた華族たち そもそも「華族」とは、明治2年(1869)から昭和22年(1947)まで存在していた日本における貴族階級のことを言う。版籍奉還と並行して、従来の身分制度の公卿・諸侯の称号は廃止となり「華族」と称されるようになった。その後明治17年(1884)の華族令によって、「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」の5つの爵位が設けられ、華族内で等級分けされた。 ちなみに桜川涼子の実家は男爵の位を有していた。女性が爵位を継承できないことから、父(彼は涼子の母の婿だった)が芸者と出奔したことで爵位返上の危機に陥り、涼子は家や雇用している人々を守るために同じ男爵の階級にある家の子息と婚約したのである。 昭和20年(1945)に終戦を迎えた後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は早々に日本政府に対して新憲法の草案作成を指示した。そこから常に議論され続けたのが、華族制度の存続についてだ。 昭和天皇は、時の内閣総理大臣・幣原喜重郎に対して「堂上家(元は公家、しかも公卿になれる家柄の所謂上級貴族)だけでもどうにか残せないものか」と相談したという。華族は「皇室の藩屏(皇室の近臣として民の模範となる存在)」とされていたので、昭和天皇としても自身の傍に堂上家がいてくれれば心強かったのだろう。しかし、その願いは叶わなかった。 とは言え、最初から即時全廃が決まっていたわけではない。草案では「この憲法施行の段階で華族その他の地位にある者については、その地位は生存中に限り認める。但し、将来華族その他の貴族たることにより、いかなる政治的権力も有しない」という内容だった。しかし、特権階級の存続に対する反対意見も多く、結局衆議院はこの一文を削除して可決。その後貴族院もこれを可決した。 そして、作中で寅子が感激した憲法第14条第1項「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」に続く第2項で「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と定められ、昭和22年(1947)5月3日の施行をもって華族制度は廃止されるに至ったのである。 空襲で屋敷が焼け落ちるなどして甚大な被害を被っただけでなく、戦後は「華族世襲財産法」が廃止されて華族は益々追い詰められていた。また、莫大な資産を有していた家も財産税によって約9割が取り上げられることになった。そこにきて華族制度そのものがなくなってしまったのだ。路頭に迷う人々も少なくなかった。 しかし、その後ただ零落するばかりの家もあるなかで、かつて籠の中の鳥だった令嬢・夫人らがたくましく新たな世の中を生き抜いて己の幸せを実現していった事例も数多くある。さて、桜川涼子は「桜川男爵家」の呪縛から解き放たれた後、どのように生きていくのだろうか。現段階ではその片鱗は物語に見えないが、いつかまた彼女の人生がどこかで寅子と交わることを期待したい。 <参考> ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版) ■『「華族」の知られざる明治/大正/昭和史』(ダイアプレス)
歴史人編集部