“ただの骨折”が命取りに?高齢女性に多い「大腿骨骨折」、認知症・寝たきり・肺炎・心不全を引き起こすリスク
一瞬の不注意が、一生の健康を奪う―人体の中で最も大きい骨である大腿骨の骨折は、坂道を転がり落ちるように「老い」を進行させる。特にミドル・シニア女性にとって最も恐ろしく、また起こりやすい骨折である。ピンピンコロリで一生を終えたいなら、これだけは絶対に避けなければならない。 【写真】大腿骨骨折をされた上皇后美智子さま。他、大腿骨骨折の3つの種類
大腿骨骨折は「死を招く大けが」
10月8日に右大腿骨の骨折で手術を受けられた上皇后美智子さま(90才)が、その5日後、車椅子で東大病院を退院された。20日には「卒寿」である90才のお誕生日を迎えられ、現在はお住まいの仙洞御所でリハビリに励まれているという。 「手術時点では、入院は1~2週間とされていましたが、異例のスピードで退院されました。手術をした病院に2~4週間入院した後、リハビリ専門病院に転院して1~2か月ほどリハビリするのが一般的だとされているので、全身状態が良好だったのでしょう。 大腿骨骨折は“単なる骨折ですまない”といわれているので、皇室関係者はひとまず胸をなで下ろしていますが予断を許しません」(皇室記者) 周囲が危惧するのも無理はない。高齢者にとって大腿骨骨折は「死を招く大けが」といわれているからだ。 全身がんを患いながら第一線で活動を続けてきた樹木希林さん(享年75)も、2018年に知人宅で転倒して大腿骨を骨折。手術後に一時危篤状態に陥り、骨折から約1か月後に亡くなった。 なぜ、“ただの骨折”が命取りになるのか――。
大腿骨はほかの骨に比べて折れやすい
大腿骨骨折は特に高齢女性に多く、年間25万人いるといわれる患者のうち女性が約8割を占める。 芸能界にも経験者は多い。木の実ナナ(78才)は2015年、舞台公演後につまずいて転倒し、大腿骨を骨折。1か月の車椅子生活を送った。同じ年に、赤木春恵さん(享年94)も自宅で骨折。2017年には研ナオコ(71才)、黒柳徹子(91才)が大腿骨骨折を経験している。 年を重ねた女性にとって決して他人事ではなく、誰しも、ふとした拍子に起こりうるのが恐ろしいところ。戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さんは、女性に多い理由は骨粗しょう症だと指摘する。 「全国の骨粗しょう症の患者数は推計1590万人で、そのうち女性が1180万人と圧倒的に男性より多い。なぜなら、更年期以降の女性は女性ホルモンが減少するので、骨を壊す『破骨細胞』の働きが強くなり、骨がもろくなる。 骨粗しょう症になると、少しぶつけただけのような軽い衝撃や転倒でも骨折しやすくなります。ひどくなると立ち上がったり、急に動き出しただけでも折れる。骨粗しょう症は自覚症状がないため、骨を折るまで気づかない人も多いのです」 大腿骨とは、股関節の下にある太ももの骨。人間の体で最も大きい骨で、歩くときに体重を支えるうえで重要な役割を担っている。 日本赤十字社前橋赤十字病院部長兼院長補佐の浅見和義さんが解説する。 「大腿骨の頸部は、45度ほど体の内側に折れ曲がった構造をしています。曲がった部分の頸部はほかの部分に比べて柔らかく、外部からの衝撃を受けやすいため、ほかの骨に比べて折れやすいのです」 ◆大腿骨骨折は3つに分けられる 骨折そのものの痛みはもちろん、前述の通りほかの部位の骨折よりも死に直結するリスクが高い。たとえば、大腿骨には骨を作る「骨髄」があり、骨折によって骨髄に含まれる脂肪が血管に入ると、肺の血管を詰まらせる「脂肪塞栓」を引き起こすケースがある。場合によっては呼吸障害に陥り、死に至ることもあるのだ。戸田さんが言う。 「骨髄があるため、ほかの骨を骨折したときに比べて出血量が多く、全身状態に影響が出やすい。骨折が原因で貧血となり、体が弱りやすくもなります」 骨折した場合、ほとんどのケースで手術が必要になる。骨頭の根元部分の「頸部」を骨折した場合は、人工の骨頭に取り換える「人工関節置換術」を行い、太く出っ張った「転子部」を骨折した場合は、プレートとスクリューを入れる手術を行うのが一般的だ。