“ただの骨折”が命取りに?高齢女性に多い「大腿骨骨折」、認知症・寝たきり・肺炎・心不全を引き起こすリスク
1年以内の死亡率は20%
ただし、手術を受けても、元通りの生活に戻れるとは限らない。むしろ、手術が大病のリスクになることもある。国民生活基礎調査の概況(2022年)によると、要介護者が、介護が必要となった主な原因で「骨折・転倒」が3位となっている。 「しかも、手術後に約2割の人に合併症が発生するとされます。さらに、1か月以内の死亡率は平均5%、1年以内の死亡率は平均20%ともいわれています。 ほかにも、術後は『せん妄』といって、時間や場所がわからなくなるような意識障害が起きやすくなる。寝たきりになると一日のほとんどをベッドで過ごすことになり、活動量が減って脳への刺激が少なくなり、認知症が始まることもあります。高齢者であるほど術後は体力が低下しやすいので、誤嚥性肺炎や心不全、感染症のリスクも高くなります」(戸田さん) 退院してリハビリを始めても、若い頃のような回復力があるわけではない。寝たきりで筋力をほとんど使わなかった場合、筋肉量は3~5%減るといわれるので、筋力が衰えて歩けなくなることも少なくない。 「大腿骨を骨折すると、骨がくっついて歩けるようになるまで1か月半~2か月ほどかかります。ベッドで横になっている時間が長くなるのでエコノミークラス症候群と同じく、足に血栓ができて突然死することもあるので注意が必要です。また、高齢者は糖尿病や高血圧など持病がある人が多く、療養中に悪化する危険性もあります」(浅見さん)
重要なのは骨密度と筋力
高齢者にとって命取りとなる大腿骨骨折を予防するにはどうすればいいか。何より重視すべきは骨密度を落とさないこと。そのためには、日常生活で「ACCESS(アクセス)」に気をつけるべきだと戸田さんはアドバイスする。 ◆骨粗しょう症リスクを高める「ACCESS」に要注意! 【A】アルコールをよく飲む 【C】「コルチコステロイド」の服用による副作用 【C】カルシウムの摂取量が少ない 【E】(女性ホルモンである)エストロゲンの分泌が減る 【S】スモーキング(たばこ) 【S】セダンタリー(座りっぱなし)の生活 「国際的に、過度の飲酒や喫煙は骨粗しょう症のリスクを高めるといわれています。特に気をつけてほしいのは、『S』の『座りっぱなし』。じっとして体を動かさずにいると、股関節が硬くなり、筋肉が落ちて骨が弱くなります」 骨を強くするためにはジャンプや歩くなど縦方向の運動で、骨に直接的な刺激を与えるのがいい。 「ある程度の年齢になるとジャンプはひざに負担をかけるので、ウオーキングがベター。秋田大学の研究では、40代後半から50代の閉経前後の女性がウオーキングを6か月間行ったところ、ウオーキングをしなかった人に比べて大腿骨頸部の骨密度が増加しました」(戸田さん・以下同) 加えて、筋力をつけたい。 「いくらジャンプやウオーキングで骨密度が増えても、筋力が衰えれば骨にかかる負担が増えて、骨折しやすくなります。筋肉を鍛えるには、『サイドブリッジ』というトレーニングが効果的。横向きに寝転がり、肩の真下にひじをつき、ひじに重心をのせて上半身をまっすぐに引き上げる。このとき、頭から足まで一直線にするのがポイントです」 浅見さんは、バランス感覚と柔軟性を養うことも忘れないでほしいと話す。 「体勢を崩した際に大けがを防ぐには、バランス感覚や柔軟性も必要です。バランス感覚をつかむには、片足立ちの練習をするといい。手すりなどにつかまりながら、10秒間ぐらい片足で立ってみて、慣れたら手すりから手を離してみるといいでしょう。柔軟性を高めるには座ったままでもいいので、足を伸ばしたり曲げたりするストレッチがおすすめです」