「心理学/数学/経済学/社会学…最強はどれだ?」…人間の協力関係を制す”最高の戦略”を導き出した”20世紀で最も有名な実験”の衝撃
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第25回 『我々人間が「子供」を愛するのは純粋に「子供のため」ではない…人が自らを犠牲にしてまで「親族」を助ける本当の理由』より続く
ロバート・アクセルロッドの実験
多くの場合で、同盟を結んで、相互に協力し合いながら長期的に利益を得ようとすることは有意義だろう。だが、成功する確率がいちばん高いのはどの協力戦略なのだろうか?実際に互恵関係を結ぶには、どうすればいいのだろう? 1980年代前半、この問いに答えを見つけるため、米国人政治学者のロバート・アクセルロッドがある実験を行った。この実験はのちに、20世紀で最も有名な実験の一つに数えられることになる。アクセルロッドは、さまざまな戦略を集めてコンピューター・シミュレーションとして総当たり戦を行えば、どの協力形態が優れているかがわかるはずだと考えた。 そこで、心理学者、数学者、経済学者、社会学者を招待し、囚人のジレンマに関する戦略を提案してもらい、それらを繰り返し競わせることにした。200ラウンドを超える総当たり戦として、すべての戦略をほかのすべての戦略と競わせる。そして最後に最も高い得点を得ている戦略が勝者となる。 アクセルロッドの実験に参加した14人の学者は、それぞれ異なるさまざまなプログラムを提出した。たとえば「永遠の報復」。ここでは基本的に協力するが、一度でも搾取されたら、それに対して永遠の非協力で報復する。ほかにも、ランダムで予想できない行動をとる、どんな場合も協力する、絶対に協力しない、などの戦略が提出された。
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