「心理学/数学/経済学/社会学…最強はどれだ?」…人間の協力関係を制す”最高の戦略”を導き出した”20世紀で最も有名な実験”の衝撃
最高点を獲得した戦略「しっぺ返し」
どの戦略が最高点を獲得するかを予測するのは不可能だった。つねに自分の利益しか考えないタフで身勝手な者?それとも、相手から搾取されるようなケースでも例外なく協力する温厚で弱腰な人?あるいは、行動に筋が通っていないので何をするか予想できない誰か?もしかすると、1回だまされただけで世界を崩壊させようとする復讐の鬼かもしれない。 「先読み」「ダウニング」「タイドマンとチエルッツィ」など、独特な名前でさまざまな戦略が提出された。最高点を獲得した戦略を考案したのは、トロント大学教授で米国人数理心理学者のアナトール・ラパポートだった。同時にその戦略は、すべてのなかで最も単純でもあった。その名は「しっぺ返し」。「しっぺ返し」は、最初は必ず協力するが、次からは相手の行動を模倣する。相手が協力すれば、こちらも協力する。相手が協力しなければ、こちらも協力しない。 「しっぺ返し」は驚くほど直感的で、他者に対してどの程度まで協力すべきか、あるいは善意の限界はどこにあるのかという点で、私たち自身の道徳的感覚とおおよそ一致している。最初は協力を申し出るが搾取されるのは拒む点も、直感的に正しいと思える。 それに、相手が和解しようとしてふたたび協力してきたときに、こちらも協力に態度を戻すのも当然だと考えられる。この戦略が適切だと感じられるのは、私たち人間が進化を通じて「しっぺ返し」と同様の協調性を獲得してきたからだと考えられる。 一見したところより優れていそうな案を提出したにもかかわらず、2回目の実験でも「しっぺ返し」が優勝した。また、1位から8位までの戦略はすべて、「親切」であることを共通の特徴としていた。ここで言う「親切な戦略」とは、ほかにどんな特徴を備えていようとも、初回は必ず協力する戦略のことだ。 これをもって、アクセルロッドは、特定の条件がそろえば、進化を通じて協力を重視する道徳心が養われることを証明した。
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