潔白だった井岡のドーピング問題で失態続けたJBCトップに畑中会長が「しかるべき責任を取るべき」と事実上の“辞任要求”
倫理委員会からも提言された通り、不備の多いドーピング規定の見直しと、ガバナンスの再構築は必要である。だが、今回、救いようのない大失態を犯して物がトップにいて満足なフォローもできなかった幹部で占められている組織の危機管理には不安がある。ボクシングは、現場で予期せぬトラブルが起きる競技。公平、公正を担保する“番人”であるJBCには、迅速かつ最善の判断が求められるが、何ごとも「弁護士に相談してから」の現体制では、そういう危機に直面した際に最善の判断を下すことは難しいだろう。 さらに永田理事長は、19日のオンライン会見で何度も責任の所在を問われたが「JBC内の情報漏洩」を問題視する発言を繰り返した。週刊誌には、正確な検査日時や、倫理委員会の開催日時、またB検体の検査で検出された禁止薬物の内容までが書かれており、井岡サイドもJBC内部からの情報漏洩の疑いを指摘していた。 JBCが20日に公式HPにアップした文書にも「情報が流出してしまい、一部報道によって、あたかも井岡選手に禁止物質が認められたかのような印象を与えてしまったことについて井岡選手及び関係者の皆様に心よりお詫び申し上げます。今後、この情報流出につきまして原因を調査し、しっかりとしたガバナンスを構築いたします」と書かれていた。 だが、今JBCが問われているガバナンスの不備はそこではない。そもそも永田理事長が警察に話を持ち込んだ段階で一次情報は容易に広がる状況になってしまっていた。 加えてさらなる問題も浮き彫りになった。
JBCは、処分を正式決定する前日の18日に井岡サイドに倫理委員会の答申書の内容を伝えたが、あくまでも、この段階では答申であり最終的な結論ではない。19日にJBCが答申を受けて理事会を開き、「答申の内容を受け入れ、処分なし」との結論が承認されるまで、当事者に“結論”を伝えることは手続き上の問題がある。ちなみに田中サイドには19日の理事会後に伝えられた。ガバナンスの欠如とはこういう部分なのだ。 JBCの公式HPに掲載された“謝罪文”には「JBCのドーピング検査体制及び情報管理の杜撰さによって、井岡選手及び関係者の皆様、対戦相手の田中選手及び関係者の皆様、そしてボクシングファンやボクシング関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしましたことについて、重ねてお詫び申し上げます」ともあった。そこには手続き上の瑕疵に対する反省の言葉はひとつも書かれていない。JBCが反省をもとに、今後向かおうとしている方向が間違っていると言わざるを得ない。 畑中会長が「責任を取るべき」と、暗に永田理事長らJBC幹部の辞任要求をぶち上げたのも無理はない。井岡も前日会見で「現役を続ける上で今の(JBCの)体制でやっていくのには怖いという気持ちがある」との不信感を口にしていた。これらの声は、業界全体の総意と言っても過言ではないのである。 一方で、畑中会長は、現時点でJBCに損害賠償請求訴訟などを起こす考えはないという。井岡の無実が証明された今、もうこれ以上、事を荒立てるつもりはない。畑中会長のコメントは、「田中恒成はここからまた世界のベルトを目指して切磋琢磨する。ファンの皆様の期待に必ず応えていく。また応援よろしくお願い申し上げます」という文言で締めくくられている。ただ日本ボクシング界の未来を考えるとJBCの組織改革について声を上げなければならないとの使命感がある。JBCトップは田中陣営の“辞任要求”に果たして、どういう反応を示すのだろうか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)