上野樹里「涙が溢れそうになりました」ニュージーランドの“森の神”を訪ねて感じたこと[FRaU]
「現存する最大となります。地面から最初の枝までの高さは17.7メートル。幹の周りは13.8メートル。樹高は51.5メートル。ビル15階建てに相当する高さがあります」とヘニさんが教えてくれる。上野さんはしばらくの間このタネ・マフタを見上げて、ぽつり。 「とても神聖な空気が流れていますね」 それを聞いたヘニさんは頷いて、「そう、タネ・マフタはマオリにとって、神のような存在です。祖先から伝わる神話では『この世をつくった樹』といわれています。マオリの文化に密接に関わってきた木でもあるので、数多くの神話が残っています」
その言い伝えの一つ、有名な天地創造の神話では、タネ・マフタは、ランギヌイ(空の父)とパパトゥアヌク(大地の母)の2人の神から生まれた子どもだったそうだ。父と母は固く愛し合って片時も離れなかったので、大地と空はくっつき、世界は闇に覆われていた。息子のひとりでのちに森の神となるタネ・マフタは、空と大地の間で大きく成長するにつれて、父と母を引き離すようになった。すると強い光が差し込み、そこから新しく現在の世界が誕生した。森の神となったタネ・マフタは、生命を与えることができ、地上にいるすべての生き物は、タネ・マフタの子どもであるとされている。
そう教えてくれたヘニさんは、ニコリとして「ホンギをしましょう」と、上野さんに鼻を軽く合わせるよう促す。ホンギは伝統的なマオリの挨拶で、「仲間になった証」として対面する2人が鼻と鼻を押し当てる行為。格式のある挨拶でもある。
マオリの人々によって、特別な存在として崇められてきたカウリの木の前に立ち、いま対峙していることに感謝を伝えるために、ヘニさんは透き通るような歌声で、“カラキア”という祈りを捧げ、伝承歌を歌う。その様子を真近で眺める上野さん。
「ヘニさんがカラキアをしているとき、カウリがとても喜んでいるように感じました。私たちがここにお邪魔させてもらった感謝と祈りが伝わったのかな。私はこのタネ・マフタの長い歴史を知っているわけではないけれど、親近感と畏敬の念が交錯して涙が溢れそうになりました。その後の“ククパ”というバードソング、これはラブソングとのことですが、隣の木にいた、つがいの鳥が歌を聴いて、一緒に飛び立った。まるでカウリや鳥に、こちらの思いが通じているような、神秘的な時間でした」