同性カップルの住民票、事実婚表記広がるも…健康保険の被扶養者手続きできず「どこまでも異性婚と別物扱い」
同性カップルの住民票の続き柄を、事実婚の表記と同じ「夫(未届)」「妻(未届)」と記載する自治体が広がり始めている。性的少数者に対する理解の深まりを背景に、導入した自治体はこれまでに少なくとも11市区町に上る。こうした住民票の交付を受けたことを今年5月に公表し、反響を呼んだ長崎県大村市の男性カップルが取材に応じ、同性婚を巡る訴訟や同性婚の実現に向けた思いについて語った。(水木智) 【写真】交付された住民票(画像を一部修整しています)=松浦さん、藤山さん提供
「断られると思いながら事実婚と同じ表記を申請したので、認められ、さらに賛同する自治体も増えているのはうれしい」――。同市の地域おこし協力隊の松浦慶太さん(39)と自営業の藤山裕太郎さん(39)は「夫(未届)」と記載された住民票を手に感慨深げに語る。
2人は昨年6月に結婚式を挙げ、兵庫県尼崎市で暮らしていたが、今年3月、藤山さんの故郷である自治体の近郊で、同性カップルの関係を公的に認めるパートナーシップ制度がある長崎県大村市に引っ越した。当初は同じ住所に別々の世帯として住民票を登録していたが、一つの世帯にしたいと5月、市役所に手続きを申請した。
親族関係にない場合は「同居人」と記載するのが一般的だが、松浦さんは自身を世帯主とし、藤山さんを「事実婚と同じように『夫(未届)』」とすることを担当者に要望。市は協議の結果、その日に記載を認め、住民票を交付した。
こうした事実婚と同じ表記は、鳥取県倉吉市が昨年10月に始めていたが、2人の公表後、追随する自治体が急増。愛知県犬山市、東京都世田谷区、中野区などが導入した。同区の担当者は「多様性を認め合う社会の実現に向けて必要なことだと考えた」と語る。
ただ、松浦さんは、今回の記載後に事実婚や異性間の婚姻に認められている健康保険の被扶養者の手続きをしたが、認められなかった。総務省は7月、「事実婚と区別できなくなり、実務上の支障をきたす恐れがある」として全国の自治体に連絡した。この連絡などを受け、福岡県古賀市は「転出転入の際に混乱を招く可能性がある」と導入を見送っている。