ノーベル生理学医学賞 大村智氏が着目した「放線菌」とはどんな微生物?
■放線菌は可能性を秘めている
このようにして放線菌から得られた化学物質は数千種類におよびます。いまだに新たな化学物質が報告されますが、近年は減少傾向にあります。 そこで、放線菌の可能性をうまく引き出すことで新たに薬の候補を見つける研究も進められています。放線菌の研究者である東京大学生物生産工学研究センター・准教授の葛山智久博士に聞きました 。 ――放線菌から新たな物質を見つける方法にはどのようなものがあるのでしょうか? 今までに得られた放線菌のゲノム(遺伝情報)に着目すると、1つの放線菌につき20個~30個の有用物質をつくる遺伝子群が見つかります。しかし、実際に得られた有用物質は数個しかありません。研究室で培養しているだけでは条件が悪いために、これらの遺伝子群が働くことなく「眠ったまま」なのかもしれません。 そこで、「眠っている遺伝子」を起こす方法が研究されています。例えば、放線菌に抗生物質を与える方法です。抗生物質をある濃度で与えると、放線菌は死にます。しかし、濃度を高くしたり低くしたりすると、遺伝子に突然変異が起きた放線菌が生き残り、その結果、眠っていた遺伝子のスイッチが入って、新たな物質をつくるように変化することがあります。
別の方法として、ある放線菌の遺伝子群を、別の放線菌に入れる方法も試しています。これを「異種発現」といいます。大村先生が発見したエバーメクチンをつくる放線菌「ストレプトミセス・エバーミチリス(Streptomyces avermitilis)」に他の放線菌の遺伝子を入れるのです。ストレプトミセス・エバーミチリスは、薬の生産のために工業的に使われているので、有用物質の生産能力が高くなるよう改良されているのです。研究室では、人工的にエバーメクチンをつくらないようにした株に別種の放線菌の遺伝子群を入れることで、新たな物質の発見を目指しています。 ――なるほど、新しい方法もいろいろ検討されているのですね。ありがとうございました。