火星移住計画を推進?マスク氏がトランプ政権に介入するワケ…ムダ削減から人事、外交までやりたい放題
■ トランプ氏の「ファースト・バディ」 大統領選でトランプ氏の勝利が決まった後、マスク氏はフロリダ州にあるトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」でトランプ氏やその家族と一緒に過ごしました。さながらトランプ一家の一員のようで、自らを「ファースト・レディ」ならぬ「ファースト・バディ(相棒)」と呼んで、トランプ氏との親しさをアピールしています。 マスク氏はそこでトランプ氏の政権移行チームに加わり、政権構想に深く関与しています。 例えば、マスク氏は2期目のトランプ政権の財務長官に米金融会社トップのハワード・ラトニック氏を推す考えを示しました。ラトニック氏は別の投資ファンド経営者と財務長官の座を争っていましたが、マスク氏があからさまに介入した格好です。トランプ氏周辺からは不快感が示されました。 また共和党・上院トップの院内総務には、「親トランプ」で政府効率化推進派のリック・スコット氏を推薦しました。上院共和党は、穏健派でトランプ氏とは距離があるとされるジョン・スーン議員を上院トップの院内総務に選出しましたが、マスク氏と議会の間に溝が残った形です。 マスク氏は、対外政策にも影響力を発揮する構えです。 当選後のトランプ氏がウクライナのゼレンスキー大統領と電話で会談した際、マスク氏はそこに同席しました。ゼレンスキー氏からはマスク氏にスターリンク提供に対する謝辞があったといいます。 マスク氏がイランの国連大使と会談したことも報じられています。トランプ氏は大統領1期目にイラン核合意から離脱するなど、イランとの関係は疎遠です。イランは米国が支援するイスラエルへミサイル攻撃をするなど、緊迫する中東情勢に関与を強めていますが、マスク氏は米・イラン関係の緊張緩和などに踏み込んで意見交換しました。 マスク氏は自らの事業への影響も考えて、できるだけ政府の外からトランプ政権への関与を続けたい考えのようです。しかし、世界屈指の資産家で、実業でも華々しい成果を挙げているとはいえ、たった一人の企業家が米政権に強い影響力を持ち続けることは、米国政治の歪みにつながる懸念もあります。当面は、この億万長者の言動から目が離せません。 西村 卓也(にしむら・たくや) フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
西村 卓也/フロントラインプレス