誰がための「103万円の壁」引き上げか・・・与党税制大綱は高所得層に減税、国民民主の「178万円」実現ならさらに高所得層に大減税
基礎控除と給与所得控除の最低保障額をあわせて20万円引き上げることは、代替財源なしに行うこととする、というわけである。「令和7年度税制改正大綱」に盛り込まれた所得税制の控除の拡大等により、7000億円程度の税収減となると見込まれるが、その補填は何もしない、つまりそのまま国債を増発することになる。 それでいて、引用した第2文は、今後の議論に対する牽制ともいうべき文言が添えられている。 「103万円の壁」をなくして、基礎控除と給与所得控除の最低保障額の合計額を123万円にするまでは、財源措置なしに実施するものの、それを超える見直しは、財源措置なしには実施しない、と宣した形だ。恒久的な税制改正を行うならば、必要な安定財源を追加的に確保する、とくぎを刺している。
今般の与党大綱で、「103万円の壁」を壊すことになった。そして、今後最終的な決着は3党合意の行方にかかっている。「103万円の壁」が壊れても、残された壁がある。それは「時間の壁」である。 ■3党合意の「時間の壁」は予算案提出 2025年度予算政府案を取りまとめるためには、その前に2025年度の税制が確定していなければ、税収見込みも立てられず、予算が組めない。一部の報道には、税制協議は、政府が予算案を衆議院で可決させたい2月末までにまとまれば何とかなるという話が出ているが、それはまずありえない。
なぜならば、一度国会に提出した予算政府案は、曲がりなりにも確定させた税制改正と完全にリンクしており、その確定させたはずの税制改正をそれなりの規模で書き換えるということになれば、税収見積もりもやり直さなければならず、政府は予算案を出し直さざるを得なくなる。これでは、内閣の沽券にかかわる。 やはり、一度国会に予算案を提出した以上、ごく小さな修正を除いて、規模の大きい予算の修正につながる税制改正の書き換えは、無理というべきである。そうなると、税制協議は、政府が予算案を閣議決定する前に終えなければならない。
通常国会は1月に開会し、政府は予算案を提出する。税制協議は、それまでにしか残された時間はない。 今後の税制協議は、時間の壁を意識しながらの展開となろう。
土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授