誰がための「103万円の壁」引き上げか・・・与党税制大綱は高所得層に減税、国民民主の「178万円」実現ならさらに高所得層に大減税
■法案成立後にさかのぼって適用される異例 この所得税制改正の異例なところは、2025年1月1日には上記の税制改正を根拠づける法律が成立していないにもかかわらず、2025年1月1日以降の所得に、改正法案成立後に後付けで減税措置を適用することである。 所得税制でこれだけ大きな税制改正を行う場合には、周知期間を置いたりするため、過去にさかのぼるように適用されることはなく、改正法案成立後から適用されるのが通例である。
岸田文雄内閣下で実施された2024年の定額減税は、一見すると、2024年1月1日にはそれを根拠づける法律が成立していなかったにもかかわらず、実施されたかのようにみえる。しかし、実際にはそうではない。この定額減税は、それを根拠づける改正法案成立後の6月から実施された。しかも、月々の源泉徴収時に定額の減税を行った。 ところが、今般の所得税制改正は、岸田内閣での定額減税とは措置がまったく異なる。なぜなら、変更される所得税制の控除は年単位で設定されているからである。すでに始まっている暦年で、根拠づける法律も成立していない段階で減税を実施することは、実務的にみて極めて困難である。
それでも強引ともいうべき形で過去にさかのぼるかのように実施できるというのは、年末調整を使うことを想定しているからである。 地方税である個人住民税についてはどうか。 都道府県や市町村の首長が、基礎控除を拡大すると税収が大きく減ると主張して、議論を巻き起こしたが、結局「令和7年度税制改正大綱」では、個人住民税の基礎控除は一切変更しないこととした。これに伴う地方税の減収は生じない。 以上を総合すると、今般の所得税制改正の効果は、次のようなものとなろう。
まず、基本的な現状として、所得税は累進課税されているが、個人住民税は税率10%の定率課税となっている。これにより、低所得者層は、所得税をあまり負担しないものの、個人住民税はそれなりに負担している。高所得者層は、個人住民税も多く払っているが、所得税をもっと多く払っている。 これを踏まえると、低所得者層が所得税より多く払っている住民税では、基礎控除の拡大は見送られており、そこでの減税効果は生じない。