無名ボクサーが中国英雄を倒した!日本史上最大の番狂わせはなぜ起きたのか
日本のボクシング史上おそらく史上最大と言っていいほどの番狂わせが起きた。北京、ロンドン五輪で連続金メダルを獲得後、プロでも世界王者となった中国の英雄、WBO世界フライ級王者、ゾウ・シミン(36、中国)を敵地の上海で11回2分28秒にTKOで破って新王者となった木村翔(28、青木)が29日、上海から成田空港へ凱旋帰国した。見送りの報道陣はゼロ。帰ってみれば、多くの報道陣の出迎えを受けた木村は、「まさか、こんな多くの報道陣に来てもらえるとは。世界のベルト。まだ実感がわかないですが」と感激。 「1時間しか寝てない。体がパキパキです」。大きな絆創膏で傷口を覆っていたが、さっそく居合わせた中国人観光客に、「ゾウ・シミンを破った新王者」と記念写真をねだられていた。 無名ボクサー対中国の英雄。しかも、上海のオリエンタルスポーツセンターを埋めた1万5000人は全員ゾウ・シミンを応援するという完全アウェーである。 木村もネット上の厳しい書き込みを目にした。 「100パーセント無理」「日本人がヘビー級王者になるようなもの」 だが「絶対に勝つと言う自信があった」という。 そして、こんな告白をした。 「皆さんは、勝てるわけないと思っていたのかもしれませんが、僕は、負ければ引退するつもりでした。それくらいの覚悟がなければ、あのリングには立てない。そう考えていました」 試合は予想通りの展開になった。 王者が逃げて、挑戦者が追う。 「最初は距離感のとり方がうまくてパンチが当たらなかった」 ゾウが足をつかいながら、パン、パンと軽いパンチを当ててくる。いわゆる、タッチボクシングでも会場はどっと沸く。同時にポイントを奪われていった。 だが、有吉会長は、秘策を授けていた。 「左右にステップを踏みながら追いつめるのでなく、真っ直ぐ追うんです。そうすると下がったゾウ・シミンはロープがあるから左右に動かなければならなくなって足を使い消耗するんです。そして序盤にボディを打っておく。疲れて左右に動く足が止まるときがチャンスだと思っていました」 ある意味、前半戦のラウンドを捨てて、一発勝負にかけたのである。 だが、誤算が生まれる。3ラウンドに右目の上をカットしたのだ。深さはなかったが、長く切ったため流血が激しくなった。木村は、「ほとんど血で右目が見えなかった」という。 「最悪の展開だ」 そう嘆いた有吉会長は「いつ止められるかわからないから行け」とケツをたたく。 木村のボディ攻撃も右ストレートが顔面をとらえても1万5000人の会場はシーン。おまけにラウンドのインターバルごとに、場内のスクリーンには、ゾウがパンチを当てたシーンだけが映し出された。