箱根駅伝・山登り5区の残り500m、連覇目指す順天堂大に「まさか」…エースの3年生「何としてもゴールまで」
膝に力が入らず、下り坂で体を支えられない。前につんのめるように倒れ込んだ。「明らかにおかしい。異変が襲っています」。中継していた日本テレビのアナウンサーが叫ぶ。
「ウソだろ」。解説者としてスタジオにいたOBの今井正人さん(40)は、言葉を失った。その前年、5区で新記録をたたき出し、順天堂大を優勝に導いて「山の神」と呼ばれた今井さん。目の前のモニターに映っていたのは、「区間賞を狙える」と期待していた後輩がへたり込む姿だった。
はってでも進もうと…監督の手が背中に
小野さんは震えながら立ち上がった。必死に足を前に運んだ。「歩いてもいいから、ゆっくり行こう」。監督が伴走しながら声をかける。20秒足らずで再び転倒した。
はってでも進もうと思っていた。「まだやれます」と言ったが、監督の手が背中に触れた。自分がレースを終わらせたことを初めて悟る。史上9度目の途中棄権だった。
救急車で搬送された。手足は冷え切っていた。医師の診断はエネルギー不足による低血糖。それもそのはず、走る前に口にしたのは、おにぎり一つと栄養補給用のゼリーだけだったのだから。
順風満帆な競技人生だった。生まれ育った群馬県の富士見村(現前橋市)で、足の速い小学5、6年生が入れる陸上チームのメンバーに選ばれた。長距離走は、自分が一番輝ける場所だった。
毎年正月、テレビで見る箱根駅伝への出場を夢見た。前橋育英高に進むと、全国大会で活躍し、恩師から母校の順天堂大への進学を勧められた。ほかの強豪校からも誘われたが、今井さんを筆頭に、有力な選手がそろっていたことが決め手となった。
1年で区間2位、2年ではエース2区経験
1年でいきなり箱根駅伝の7区を任され、区間2位の好走を見せる。「走っている20キロで、一度も沿道からの声援が途切れなかったことが衝撃的だった。注目度の高さを肌で知った」
練習では今井さんと組むことが多かった。身長1メートル70、体重55キロの体格はほぼ同じ。登りが得意なのも似ていた。「山の神」は誰よりもストイックだった。前夜に深酒しても、練習で手を抜く姿を見たことがない。