能登半島地震が「想定外」だった理由…「予期できない巨大地震・大噴火」にどう備えるべきか
「次の大震災」の被害予測
震災後の復旧作業では、必ず大量の災害廃棄物が出ます。環境省の作業チームは、次の南海トラフ巨大地震では東日本大震災(約2000万トン)の16倍に当たる約3億2000万トンの廃棄物が発生すると試算しました。さらに地震発生後の3年間、災害廃棄物の処理のために、船舶25隻および10トントラック5300台が必要になります。しかし、震災後の大混乱のなかでこれだけの数を調達するのは容易ではありません。 もうひとつ、深刻な課題が進行中です。時間の経過とともにインフラの老朽化が進み、以前なら地震に耐えられた建築物でも損傷する恐れが出ています。2021年10月に東京都と埼玉県に震度5強をもたらした直下型地震では、同じ場所で発生した2005年の地震では生じなかった水道管の破裂などのトラブルが多発しました。 すなわち、この15年間でインフラの老朽化が確実に進み、被害が増大したと考えられます。水道管の法定耐用年数は40年と定められており、厚生労働省の試算によると、今後20年間に全国で年間約7000キロメートルの更新が必要になるといいます。 また、阪神・淡路大震災では、建築基準法の耐震基準が強化された1981年以前の建築物に、甚大な被害が広がりました。このときの被害状況を踏まえて、2000年に、震度5強程度の中規模の地震に対してほとんど損傷が生じないようにすることを目安に耐震基準が改定されました。ところが、現在でもこの基準を満たさない不適格建物は数多く残っているのです。 南海トラフ巨大地震の発生が予測される2030年代まで、まだ5~10年ほどの時間があります。よって、この間に準備が進むという意味ではプラス要因ですが、同時に基盤インフラの老朽化が確実に進むことにも注意を向けなければなりません。日本列島の全域で、早急に耐震化を進める必要があるのです。
なぜ能登半島地震は「予想外」だったのか
2024年元日の能登半島地震(M7.6)は、太平洋側だけではなく日本海側でも地震による大きな災害が起きるという事実を、我々にあらためて突きつけました。日本海側の防災対策が十分でなかった理由として、太平洋側のように地震の発生場所とメカニズムに関する、明確なモデルがなかった点が挙げられます。 すでに述べたように、日本列島は4枚のプレートがひしめき合っています。日本海側には「陸のプレート」である北米プレートとユーラシアプレートがあります。そして日本海には両者のプレート境界があり、互いに水平方向に押し合っています。 海のプレートが陸のプレートの下に定常的に沈み込んでいる太平洋側とは異なり、ここでは地震の発生に規則性が見られません。すなわち、沈み込むプレートが跳ね返ることで定期的に起きる海溝型の巨大地震とはメカニズムが異なるのです。 一方、能登半島の東側から北へ伸びて新潟・秋田・北海道沖を通る海底には、南北方向に断層や褶曲(波のように曲がりくねった状態)などの地殻変動を表す地形が確認されています。こうした地形は地殻に対して加わるストレスによって生じたので、日本海東縁ひずみ集中帯と呼ばれています。 ここでは過去に大きな地震とそれに伴う津波が発生しました。具体的には1983年の日本海中部地震(M7.7)、1993年の北海道南西沖地震(M7.8)、2007年の新潟県中越沖地震(M6.8)などです。いずれも大災害をもたらしました。 先述したように、こうした現象には、太平洋側のプレート沈み込みのようにくり返し発生する規則性がありません。したがって、日本海の海底地震はいつどこで起きるのか、予測がまったくといってよいほど不可能なのです。換言すれば、地震現象に再現性がなく、地震を引き起こす地球科学モデルが確立していないため、防災対策が極めて立てにくい状況なのです。 日本海側の地域では、地震の危険性が地域住民へ十分に伝わっていないことが多く、太平洋側とくらべると防災対策が遅れていました。その結果として、2024年能登半島地震で大きな被害が出てしまい、われわれ地球科学者も大きなショックを受けました。 2024年能登半島地震では、M7.6という日本海側では最大級の地震が起きたため、今後も能登半島周囲の活断層では地震が起きやすい状態になっている可能性が高いと考えられます。一方、過去の履歴を見ると日本海側ではM8クラスが最大であり、東日本大震災や南海トラフ巨大地震のようなM9クラスの巨大地震による強震動と大津波は発生しないでしょう。 しかしながら、M7.6でも今回のような大災害が発生することは大きな教訓としなければなりません。今後は日本海での地殻変動を注視し、地震と津波に対して厳重に警戒する必要があります。 * * * 本連載では、人気の地球科学者と地学講師が、「高校地学」の内容と魅力をわかりやすくお伝えしていく。
鎌田 浩毅、蜷川 雅晴