能登半島地震が「想定外」だった理由…「予期できない巨大地震・大噴火」にどう備えるべきか
地球46億年の歴史、地震のメカニズム、気候変動のからくり、日本列島の特徴、宇宙の成り立ちと進化……誰もが知っておくべき地球科学の教養。そのエッセンスが凝縮されているのが、「高校地学」だ。 【写真】なぜ日本には地震が多いのか…地球科学で見る「列島の異変」と「次の大地震」 本連載では、「最高の教養」である高校地学の中身を、わかりやすくご紹介する。地質学、古生物学、自然地理学、気象学、天文学、宇宙論など、幅広い学問分野の最新成果がまとまったその魅力を、存分にお楽しみいただければと思う。 本記事は、『みんなの高校地学 おもしろくて役に立つ、地球と宇宙の全常識』(鎌田浩毅/蜷川雅晴・著)を一部抜粋・再編集したものです。
地震で誘発される「富士山噴火」
前回の記事(『なぜ日本には地震が多いのか…地球科学が突き止めた「列島の異変」と「次の大地震」』)で、南海トラフ巨大地震についてお話ししました。 南海トラフ巨大地震について、もうひとつ重要なポイントは、今回は東海地震が確実に連動することです。前回の南海トラフ地震は昭和東南海地震(1944年)と昭和南海地震(1946年)のふたつで、東海地震の震源域だけは動かず、その分のエネルギーが地下で溜まっています。 もし東海地震が起きると、震源に近い東海地域だけでなく首都圏にも大きな被害が出ます。さらに日本最大の活火山である富士山のマグマだまり(地殻内のマグマが溜まっている部分)を刺激し、噴火を誘発する可能性があるのです。実は、南海トラフの東端にある駿河トラフは、北方の活断層である富士川河口断層帯につながっているのです。 現在、富士山は「噴火スタンバイ」の状態にあります。その一因は、東日本大震災がマグマだまりを揺らし、不安定化させたことにあります。日本列島では活火山が111か所認定されていますが、東日本大震災の直後から20か所の火山の地下で地震が発生しています。このうち箱根山や草津白根山は噴火しましたが、富士山は幸い噴火していません。
今のところ、富士山はギリギリ大丈夫だが…?
現在の富士山はギリギリのところで持ちこたえていますが、次の南海トラフ巨大地震で噴火が誘発される可能性があります。実際、1707年に南海・東南海・東海の三連動でM9クラスの宝永地震が起きた49日後に、富士山は200年ぶりの大噴火(宝永噴火)を起こしました。 なお、それ以来300年間、富士山は噴火していないので、マグマの噴出量は単純計算で5割増しとなる可能性があります。また、最近5600年間の噴火の平均間隔は約30年なので、10回分のマグマが地下で噴火の瞬間を待っているとも考えられます。 江戸時代の宝永噴火では火山灰が横浜で10センチメートル、江戸で5センチメートル積もりました。近い将来の噴火でも同様の状況が予測されています。現代の大都市に火山灰が降り積もった場合、首都直下地震と同様に電気・水道・ガスのライフラインはすべて止まることになるでしょう。経済活動はもとより交通・通信も止まり、場合によっては日本発の世界金融危機をもたらす可能性もあります。 内閣府は宝永噴火と同レベルの噴火で2兆5000億円の被害が発生すると試算しましたが、火山学者の多くはこれを過小評価だと考えています。すなわち、南海トラフ巨大地震と連動すれば、数十兆円の被害が加算される恐れがあるのです。