『書店員が選ぶ絵本新人賞2024』大賞受賞・さかとくみ雪「美大の通信課程をドイツで卒業。自分や娘の実体験から生まれた物語」
2024年、「書店員が選ぶ絵本新人賞」で大賞を受賞したさかとくみ雪さんは、ドイツ在住のイラストレーター。育児をしながら日本の美術大学の通信課程で学び、子どものころから夢みた絵本作家を目指すようになります。夢を叶えるまでの道のりと、作品に込めた思いとは(構成=篠藤ゆり 撮影=洞澤佐智子 撮影協力=クレヨンハウス吉祥寺<東京店>) 【写真】大賞受賞の絵本に登場するライオンくんの顔のモデルになった猫 * * * * * * * ◆思い浮かんだのは子どものころからの夢 受賞の知らせはメールで受け取りました。ここ数年、ほかのコンペティションで最終選考まで残ることは何度かありましたが、なかなかその先に進めなくて。受賞したと聞いて、やっとトンネルを抜けた感じがしましたし、友人と「そろそろ結果がわかるころだよね」と話していたときだったので嬉しかったです。イタリア人の夫も「よかったね。飲もう!」と喜んでくれて、さっそくワインで乾杯しました。 私はいま44歳ですが、絵本制作を学んだのは33歳を過ぎてからです。結婚を機にドイツに渡ったものの、ドイツ語がまったくできないのでなかなか仕事に就けず、しばらくの間は専業主婦をしていました。そろそろ新しいことにチャレンジしたいと思ったとき、頭に浮かんだのは、子どものころに抱いていた「イラストレーターや挿絵画家になりたい」という夢でした。 絵を描くのはもちろん、児童文学が好きだった私は、物語を読むたび、「私だったらこんな挿絵を入れたいなあ」と絵を描いてみたり、好きな本の挿絵を模写したりしていました。『十五少年漂流記』や『海底二万里』、江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズ、「ズッコケ三人組」シリーズ、それに『魔女の宅急便』がお気に入りでしたね。
まずは学ぶところから、と武蔵野美術大学の通信課程に入学。ウェブを利用した授業が主体ですが、スクーリング(対面授業)もあるので、そのたびにドイツから日本に通いました。私が専攻していた油絵科には、カナダやタイから来ている人もいましたよ。年齢もさまざまで、80代の方もいたし、ある分野ですでに成功なさっている方もいました。 絵本のクラスでは、「貼り絵の技法を使い、3日間のスクーリングで1冊仕上げる」という厳しい課題も。そのとき仕掛け絵本作りにチャレンジしてみたら、大変だったけれど想像以上に面白くて。絵本作家になるという目標が定まったのは、そのころだったと思います。 妊娠を機に休学はしましたが、子育てをしながら卒業し、いまは自宅でウェブデザインやイラストを描く仕事をしています。インターネット経由で日本やドイツ以外の国からの依頼も受けられますし、仕事の傍ら、賞への応募も地道に重ねていきました。