『書店員が選ぶ絵本新人賞2024』大賞受賞・さかとくみ雪「美大の通信課程をドイツで卒業。自分や娘の実体験から生まれた物語」
◆文化の違いをポジティブに捉えたい 私の娘は今、8歳。ドイツ語とイタリア語とのバイリンガル教育を受けられる小学校に通っています。国際都市にある学校ということもあるのでしょうが、オールインクルーシブ、つまり差別をしないことを教育理念に掲げていて、それも物語を作るときの参考になりました。 たとえば民族が違えば、食習慣も異なります。海外の学校に子どもを通わせている日本人の間でよく話題になるのが、「おにぎりを持たせるか問題」。お弁当におにぎりを入れると、興味を抱いてくれるクラスメイトもいる半面、「なに、それ!」とからかわれたり、バカにされたりすることもあるからです。このエピソードも物語に入れてみたので、ぜひ読んでみてください。 私は日本でも“流浪の民”のように生きてきたので、いろいろな価値観と出会えるのは楽しいことだと思っています。異国で暮らす私のアウトサイダーとしての視点を、できるだけ作品に込めてみたのですが、ドイツで生まれ育った娘にとってはわかりづらい感覚なのかもしれません。彼女は私が前に作った絵本の主人公のモデルが自分だと思っていて、断然そちらのほうがお気に入りみたい。「『ライオンのくにのネズミ』で受賞したよ」と言っても「ふ~ん」といったつれない反応でした。(笑) とはいえ、これからも自分なりの視点を大事にしながら、絵本作りに取り組んでいきたいですね。今回はヨーロッパの運送事情により、絵の具の入手が難しいこともあって、デジタルで描きました。ただ、絵本にはアナログの表現も欠かせないと思うので、次は手描きで作った作品も皆さんに読んでいただけるよう、頑張ります。 最近は絵を描くことに凝った娘が、なんだかときどき私よりもうまくて……(笑)。ちょっぴり嫉妬していますが、重ねた人生経験を活かして絵本を描いていきたい。年齢を重ねてから学んだからこそ、やりたいことにはどんどん挑戦していきたいと思っています。 (構成=篠藤ゆり、撮影=洞澤佐智子)
さかとくみ雪