創業170周年を迎えるTIMEX(タイメックス)は高級時計の異常な盛り上がりに冷笑を浮かべる【CEO&デザイナー取材】
2024年3月某日、かつて真鍮産業が盛んだったアメリカ・コネチカット州ウォーターベリーで創業したアメリカブランドのタイメックスより、CEOのマルコ・ザンビアンキ氏とデザイナーのジョルジオ・ガリ氏が来日した。この貴重な機会に編集部はインタビューを申し込み、タイメックスブランドと時計界の現状について話を聞いた。
資産価値とは一線を画す、広く一般に向けた時計作り
–ここ数年、異常な高級時計ブームがありました。100ドル前後のアイテムが多いタイメックスブランドのCEOとして、そうした昨今の盛り上がりをどう見ていましたか? マルコ「確かに世界中で高級時計が盛り上がっていましたね。今のように先行きが不透明な情勢だと、金などの有形資産の投資に目を向ける人が増えるのは自然なことでしょう。ただ、それ自体は同じグループ内の別ブランドも含め、まったく関係のない出来事だと思っています(苦笑)。ご存知の通り、タイメックスは19世紀末の“ダラーウオッチ(※1)”に代表されるように広く大勢の方に使っていただくタイムピースを作り続けてきました。色々な引き出しを持つことは大切ですが、ブランドの根幹を揺るがすような価格設定の時計を作る必要はないと思っています。そうした金銭的な価値よりも、使っていて心が豊かになるような時計を作りたいですし、それはロレックスであろうと同じではないでしょうか」 ※1)1895年にわずか1ドルで発売された懐中時計のこと。1989年には年間100万個が販売され、20年間で4000万本ものセールスを記録したという。 –確かに価格高騰の続く高級時計に対し、タイメックスは今なお日本円で1万円を切る製品も揃えていますよね。 マルコ「私たちは多くの方に愛用いただける時計ブランドでありたいと考えています。データリンク機能を持つ時計も開発しましたし、デジタルウオッチもそうですね。そうしたレガシーを受け継ぎながら、170年を超えてイノベーションを重ねていきたいと考えています。一方で、昨年からはアメリカでリワウンドプログラムという取り組みも行っています。これは、タイメックスの時計はもとより、それ以外の時計についても私たちに送っていただけたら、ウオッチメーカーがリペアを施して再販するというもの。送っていただいた方には次回タイメックスでお使いいただける20%のクーポンを差し上げ、修復された腕時計は専用サイトで販売されます。また、『ウォーターベリーオーシャン』のような再生素材を使うといった様々なサスティナブルな取り組みも行いながら、170年から先も広く愛されるブランドでありたいと考えています」