創業170周年を迎えるTIMEX(タイメックス)は高級時計の異常な盛り上がりに冷笑を浮かべる【CEO&デザイナー取材】
–きっと今、あなたが腕に着けているモデルですね(笑)。タイメックスは非常に多くの新作が毎年出ますが、どのようにアイデアを引き出しているのでしょうか? ガリ「世界のニーズを見極めつつも、ヘリテージと照らし合わせながらタイメックスらしい時計を作ることを心がけていて、あらゆるところからインスピレーションを受けています。常に広くアンテナを張り巡らせていると、たとえ定番品であっても自然と次のデザインの発想が生まれてきます。例えば50年前にあったものを現代ならどう解釈するか、ということを現代の事情も鑑みながら考えるのです。次に出す予定の新作はミッドセンチュリーのファニチャーなどに見られるデザインや色彩に着想を得ています。そうしたカラースキームを適用したコレクションは、現代において新鮮に映ることでしょう」 –最後に、創業170周年のアニバーサリーイヤーで何か特別なことを行う予定はありますか? マルコ「節目の年なので、アメリカではいくつかのイベントを予定していますし、アニバーサリーモデルも出す計画があります。ただ、それらは大切ではあるものの、どちらかというと私たちは次の年から先も継続していくことに重きを置いています。このアニバーサリーイヤーを通じて、タイメックスは170年に及ぶ歴史があることがより多くの人々に伝えることができたら嬉しいですね」
取材後記
現在、タイメックスを筆頭にヴェルサーチェやフェラガモ、フルラ、アディダスなどを含む14ブランドほどをグループで抱え、全体では年産1600万本程度を製造しているという。タイメックスだけでも現行商品は1000本ぐらいが定番品としてあり、コラボモデルやNFLやMLBなどのチームのトリビュートモデルといった限定品までの大小を含めるとその倍程度になるのではないか、とのこと。なお、コラボレートについては時と場合によって様々なアプローチの手段を行うそうで、最新作が出た「セコンド・セコンド」とのコラボレーションは、インスタグラムのDMから始まったのだという。それ以外には若いアーティストの支援の一環として、タイメックスがコラボレーションすることもあるそうだ。 これほどの巨大グループが、広く一般に向けて腕時計を作り続けている現状は、腕時計の着用習慣を推奨している筆者にとって頼もしい限りである。資産としてではなく、着けていて楽しく、心地よい腕時計作りの姿勢には共感を覚える。すべては170年の歴史で築いてきた広大なネットワークと技術研鑽のなせる技。もちろん、それがタイメックスプライスの維持にもつながっていることは明白だ。 最終的に時計を選ぶのは私たちエンドユーザーであるが、欲しいと思ったとき予算の下限にタイメックスというベンチマークがあることでどれほど多くの人が時計を選びやすくなることか。資産価値からは距離を置いた本質的な時計選びの楽しさを、改めてタイメックスから学んだインタビューとなった。
TEXT/Daisuke Suito (WN編集部) Photo/Kensuke Suzuki (ONE-PUBLISHING)