土と森に囲まれた〈青森県立美術館〉〈国際芸術センター青森〉【青森でアートを巡る旅へ】
ここでの展覧会タイトルは『currents / undercurrents –いま、めくるめく流れは出会って』。目に見える流れ「currents」と、目に見えにくい流れや暗示を意味する「undercurrents」がキーワードになっている。
岩根愛《The Opening》は作者が高校時代を過ごしたカリフォルニア州北部のマトール川をドローンで撮影したもの。青森県と緯度が近いこの川では、年に一度、川が決壊して海に流れ込むという現象が起きる。この地域は1970年代に自然の中で自給自足の生活をするために移住してきた人々のコミュニティがある。エコロジーという概念に基づく西海岸における市民運動の発祥の地ともいわれる。
「修復」や「なおす」こと、そしてその行為から見えてくるものをテーマにしている青野文昭は今回の作品のために青森市内で箪笥などの不要品を集めたところ、古い新聞や日記、写真などが大量に見つかった。それらは過去の、知らない人の営みだけれど、鑑賞者の誰にでも似たような記憶があるものだ。時間が経てばその記憶もまた過去のものになる、その循環が箪笥とともに積み上げられている。
大きな窓のある展示室に設置された是恒さくらの作品は、青森市内で集めた着物や端切れを裂いたり染め直したりして作られたもの。鯨と人との関わりをモチーフにしている。青森では岸に漂着した鯨を食料とするほか、魚を連れてくる「恵比寿神」として信仰の対象にもなっていた。20世紀になってノルウェーから火薬式大砲を使った近代捕鯨技術が導入されると日本の古式捕鯨は行われなくなり、世界中で乱獲が始まった。
この展覧会では一部の作家は滞在制作を続け、7月13日から始まった後期展示でその成果を発表する。岩根愛は八甲田山の雪解けをテーマにした新作を見せる。是恒さくらは作品の中に縫い込められた米を使い、餅をついて振る舞う。新たなリサーチにより、新作や前期と同じ作品でも異なる展示が楽しめる。青森で彼らが見たもの、考えたことがより身近に感じられる。
〈青森公立大学 国際芸術センター青森〉
2001年開館。設計:安藤忠雄。主な野外彫刻に青木野枝、河口龍夫など。青森市大字合子沢字山崎152-6。9時~19時(展覧会は10時~18時まで)。展覧会『currents / undercurrents -いま、めくるめく流れは出会って』後期展示は2024年7月13日~9月29日まで。会期中無休。入場無料。公式サイト
photo_Takuya Neda text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano