土と森に囲まれた〈青森県立美術館〉〈国際芸術センター青森〉【青森でアートを巡る旅へ】
原口典之は横須賀生まれ、少年時代の一時期を東北で過ごしたことがある。部屋いっぱいになるかと思われる彼の巨大なオブジェ《F-8E CRUSADOR》は原口が幼少期に見た戦闘機やそのプラモデルが原風景となっている。実際の戦闘機は鋼鉄で作られているが、この作品は木枠とキャンバスで作られた、中身が空っぽの物体だ。
隣の展示室の天井に設置された青秀祐の《Ghost Lightning kai》は、原口典之の作品への応答ともとれる作品だ。彼がアーティストになったのは原口の作品がきっかけだという。また父がもと自衛官パイロットだったことから、幼いころから飛行機に憧れて育った。彼の作品も布でできている。2020年に亡くなった原口と1981年生まれの青による空虚な戦闘機が2機、ひそひそと何かを語り合っている。
コミュニティホールに設置された「Virtualion(バーチャリオン)」プロジェクトによる《a day before art》。バーチャリオンは、2020年に大阪大学の大学院生だった五十嵐翔吾によって開発された技術を元に設立した、データと人をつなぐインターネット上のプラットフォーム。今回の展示では鑑賞者が青森の旅の記録を投稿すると、その写真が〈青森県立美術館〉の壁に投影される。「ミュージアムに来た体験がそのまま展覧会になる」アートだ。
青森県立美術館
2006年開館。設計:青木淳。主なコレクションにシャガール、奈良美智、棟方志功など。青森市安田字近野185。9時30分~17時(入館は16時30分まで)。展覧会『かさなりとまじわり』は2024年9月29日まで。7月13日からは『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』も開催中。休館日は第2・第4月曜日。『かさなりとまじわり』+『鴻池朋子展 メディシン・インフラ』のセット券は一般 2000円ほか。公式サイト
●半円形のギャラリーからアートが現れる〈青森公立大学 国際芸術センター青森〉
安藤忠雄が設計した〈青森公立大学 国際芸術センター青森〉は青森市郊外の森の中に佇んでいる。半円形になった建物は野外劇場としても使える造りだ。展示棟内部ではギャラリーが弧を描く。奥へと歩いていくにつれてカーブした壁の向こうから作品が現れて、作品との出合いがよりドラマチックなものになる。別棟で創作棟と宿泊棟があり、アーティストたちが地元の人々と交流しながら滞在制作ができる。