BYDシールが控えめにいってお買い得すぎ! 走りのネガを数カ月で改善してくるスピード感も衝撃でしかない
「安かろう悪かろう」ではない魅力的な価格設定は日本車にも脅威
今回は後輪駆動と全輪駆動の両方を試乗したのだが、個人的には後輪駆動がより好印象だった。市街地とはなるが、ドイツ系の後輪駆動BEVを運転したことがあるが、後輪駆動車はICE車でもめったに運転することはなくなったので、「この後ろから押される雰囲気はいいなあ」とは思っていた。 しかし、今回はおもにワインディングでの試乗ということもあったが、後輪駆動のよさがさらに伝わってきた。しかもステアリングの応答性が非常にいい。運転スキルがそれほど高くはない筆者でも、比較的高い速度で心地よい運転を楽しむことができた。 車両の走っているところを撮影するため、下り坂途中の退避場所で方向転換し、坂を上って戻るということを繰り返したのだが、方向転換して坂を上る際にアクセルを踏んだとき、ストレスなく加速していく様子はじつにBEVらしく、我が国の首相(本稿執筆時点は岸田首相)がよく使うまさに異次元の体験であり、ICE車では体験できないものとなっていた。 テレビの通販番組ではないが、あくまで筆者の感想ではBEVの多くはいかにもデジタル的なというか、制御ありきでその乗り味にはとがった印象を持っていたのだが、今回シールを運転してみると、いい意味でICE車のような「角のまるまった」印象を受けたのにも驚いた。エンジン音がしない代わりにタイヤなどからの別のノイズが気になるのがBEVだが、車内静粛性もインドネシアのときよりかなり改善されている印象を受けた。 全輪駆動は高速道路メインで試乗を行った。試乗前に「ITAC(インテリジェント・トルク・アダプテーション・コントロール/路面状況の急激な変化や雪道などの滑りやすい路面でも高い安定性と快適性を発揮させる)」という電子デバイスのONとOFFを体験してほしいとスタッフからアドバイスをもらった。インドネシアでの印象を伝えると、このデバイスがOFFになっていたのではないかとのことであった。 高速道路で実際にONとOFFを体感したのだが、わずかに「デバイスがカットされているのかな」という、まさに誤差程度の差しか感じることができなかった。足まわりなどもブラッシュアップされているようで、筆者は大きな違いを感じることができなかったようだ。 BYDは国内で認定中古車など、ブランドステイタス向上に重きをおいたセールスプローションを展開しているように見える。そうなると「さじ加減」が難しくなるのだが、セダンスタイルでもあるシールは、ハイヤーとして少しでもいいのでフリート販売してもいいように感じた。 今後は日本でも外資系や大手企業を中心に、より「脱炭素社会」を意識した企業経営が目立ってくることだろう。そのなかで役員車など自社にて移動用に使う車両をすべてゼロエミッション車にしようとする動きも目立ってくるだろう。 何よりも、ハイヤーの後席に頻繁に座るのは社会的地位の高い人や富裕層が多いのだから、そのような人たちへのPR効果も十分期待できるものと筆者は考えている。 アプリによるタクシー配車サービスでは、トヨタ・アルファードなどのハイグレード車を選ぶことができるので、シールも一般車両よりもハイグレードなクラス(BEVクラスとしてなども)として用意すれば、ステイタスを意識しながら、タクシーとしてさらに広く乗って体感してもらうこともできるだろう。BYD自体も実際に消費者に積極的に乗ってもらおうとのキャンペーンも展開しているのだが、ハイヤーやハイグレードタクシーとしての展開もPR効果は高いようにも考えている。 関税引き上げなどで思ったような展開はできなくなりそうだが、やはり車両開発では欧州市場あたりも見ている印象も受けている。そしてそのブラッシュアップはスピード感だけではなく、その内容もまさに日進月歩となっており、パソコンやスマホにその感覚は近いように見えた。 BEVについては日本でもさまざまな意見はあるようだが、少なくともBYDのクルマを見る限りは「BEVを作り慣れているな」、そしてマーケットからのフィードバックを積極的に行っているという点は乗用車だけではなく、BEV路線バスを見ても明らかなのは間違いない。 そして「安かろう悪かろう」ではない、圧倒的に魅力的な価格設定についても性能は別としても日本車がそれに追いつくのはそう簡単ではないなと危機感を持ってしまうほど、シールの価格設定は魅力的なものとなっている。
小林敦志