突然の社長就任で「不安が次々あふれた」 食品メーカー3代目が進めた「逆ピラミッド経営」
ビジョンマップで示した未来
2023年、障がい者雇用を推進する優良な中小事業主として、厚生労働省の「もにす認定」を受けました。現在は3人を雇用。実雇用率は法定雇用率(2.5%)を上回る2.73%で、スロープや多目的トイレを設置したり、障がい者の社員の評価基準を明確化したりしたのが、評価されました。 オーケーズデリカが掲げるビジョンは「ALL OK!」です。 「私は昔いじめられて、居場所のない休み時間はつらかったことがあります。色々な特徴や個性がある人が集まり、『ALL OK!』と認めあえる会社を目指しています」 同じ年には、ビジョンマップを作り、事業の社会的役割や会社の未来像を、ポップなイラストでわかりやすく示しました。 イラストレーターに依頼し、「おむすび配り隊」、「みんなの火」といった親しみやすい言葉を使い、ダイバーシティーや仕事の意義、食べ物を通じてコミュニティーをつくる様子を絵で表現しています。 「お弁当を通して人々を応援し、誰もが安心して暮らせる『ALL OKな共感社会』を目指す会社であることを伝えたかった」と言います。 社内はもちろん、ホームページにPDFファイルを掲載するなど社外にも広報し、ビジョンを伝わるようにしました。 ビジョンマップには外国人と会話している絵を盛り込みました。オーケーズデリカは、海外輸出にも対応した食品安全の国際規格FSSC22000も取得しており、煮物などの和総菜を真空パックして台湾、香港に輸出しています。フランスでの展示会参加に向けて準備も進めています。 「ビジョンマップで将来像を明確にしたことで実現したと思っています。和食を広げ、世界中の人を健康にしたいと思います」
「中小企業のお弁当屋」に誇りを
こうした社内外の向けた経営改革が実り、現在の年商は、社長就任時より4億円増の15億円となりました。 第二工場の建設を35歳の副工場長に一任するなど、社員を信じて任せられる組織ができたこと、新規事業や品質管理、商品開発を社員主導で動かしていることが大きいといいます。 杉本さんの手腕は高く評価され、優れた女性経営者として中部経済新聞社の「中経トパーズ賞」を受けました。ビズリーチ創業者の南壮一郎さんらが受賞者に名を連ねる「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」でも、審査委員特別賞(2023 Japan東海・北陸地区アワード)に輝きました。 杉本さんは入社以来、価格競争などに直面するなかで「中小企業のお弁当屋」で働くことに誇りを持てない社員を見てきたといいます。ビジョン策定といったインナーブランディングに力を入れるのも、社員のモチベーションを高めるためです。 「お弁当を飽きないように工夫し、人々の健康を担っています。一人ひとりが世界に役立つ素晴らしい仕事をしているということを伝えるのが大切だと考えています」 心地良く朗やかな雰囲気のオフィスで、杉本さんは力強く語りました。
ライター・神谷加奈子