キヤノンが「半導体露光装置」出荷台数で大健闘、その戦略が“クレバー”である理由
(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長) ■ 「装置の帝王」の転落劇 露光装置の企業別出荷台数。2015年から2023年にかけてASMLとキヤノンが伸びた まだ日本半導体産業が競争力を持っていた1995年に、露光装置の出荷額シェアでニコンは48.9%、キヤノンは28.7%を占めており、合計すると日本は77.6%のシェアを独占していた。そして、この当時、露光装置でシェア1位だったニコンは、「装置の帝王」と呼ばれていた(図1)。 【本記事は多数の図版を掲載しています。配信先で図版が表示されていない場合はJBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/81810)にてご覧ください。】 ところが、1995年にシェア15.9%だったオランダのASMLが、その後、急速にシェアを向上させ、2002年にニコンとキヤノンを抜き去り、2010年にはシェア80%を超え、2021年には90%に達した。そして、2023年には、ASMLがシェア94.2%を独占する一方、ニコンは3.1%、キヤノンは2.8%までシェアが低下した。 ASMLは、2008年以降に主力機となったArF液浸のスループットと稼働率で、日本勢を圧倒した。そして、最先端露光装置EUVでは、ASMLの独壇場となった。その結果、もはや、露光装置分野で日本の存在感は消滅したかに思われた(注)。 ところが、露光装置の「出荷額シェア」ではなく「出荷台数シェア」を算出すると、まるで違った景色が見えてくる。以下で、詳細を論じたい。 (注)ニコンとキヤノンがASMLに敗北した原因については、筆者の以下の記事を参照いただきたい。「いつまでも『職人芸』では海外メーカーに勝てない 日本の半導体製造装置はなぜスループット、稼働率が劣るのか」(JBpress、2010年9月24日)
■ 露光装置の出荷台数と企業別シェア 図2に、露光装置の企業別の出荷台数を示す。2011年から2014年にかけて、ASMLの出荷台数は222台から136台に減少した。また、ニコンも85台から34台に減少した。一方、キヤノンは、52台から54台とあまり出荷台数が変わらなかった。 ところがその後、2015年から2023年にかけて、ASMLとキヤノンの出荷台数が大きく増大した。ASMLは169台から449台に増大し、キヤノンも80台から187台に増大した。一方、ニコンは、42台から45台とあまり大きく増えなかった。 今度は、世界の露光装置の出荷台数と企業別出荷台数シェアを見てみよう(図3)。 ASMLの出荷台数シェアは、概ね65%前後で一定している。一方、2011年に11.4%だったキヤノンは次第にシェアが増大し、2015年以降は30%弱をキープするようになった。その反面、2011年に23.7%のシェアだったニコンは次第にシェアが低下し、2023年には6.6%に落ち込んでいる。 このように、売上高シェアでは、ASMLにまったくかなわないキヤノンであるが、出荷台数では、ASMLの約半分近くのシェアを有するのである。 では、キヤノンは、どの露光装置を多数出荷しているのだろうか?