「サイコロジスト」は何をする人? 欧州スポーツ界で重要性増し、ビジャレアルが10人採用する指導改革の要的存在の役割
チャレンジし、ミスをして気づく。それは指導者も同じ
――これまでは自分が最も良いと思う選手たち11人を選んで結果を出すことがスタンダードでした。 E:だけど、同じスタンダードを作るために、若手選手を起用したり、普段スタメンに絶対起用しない選手を出したり、フォワードしかできないと決めつけていた選手を他のポジションで起用する。そこから生まれる新たな発見もあることに気づいて欲しかった。そして軸足は常に選手の成長。ここにフォーカスしなくてはならない。指導者は自分がいかに勝つか、いかに優秀な監督になるかではなく「より豊かに選手を育てる」「彼ら(の才能)を最大化する」。それがつまるところ良い指導者なんだ。そこに気づいてほしいというのが、われわれが最初に描いたプランでした。 ――私たち、今まで「(私が)彼をフォワードで使わなかったら勝てない」と話していました。要は主語が自分なんです。 E:あらゆることにチャレンジし、ミスをして気づく。それは指導者も同じプロセスを踏めばいい。だから、やりたいことを思いついたら何でもやってみたら? とコーチらに発破をかけた。例えば「この選手、センターバック6年間やってるけど、右のサイドハーフにしてみようか」と思えばやってみればいい。それがチームの試合結果と結びつかなくても構わない。それが広がってチーム力の最大化につながるかもしれない。何もやらなければ何も起こらないんだから。 ――セルヒオにも尋ねましたが、エドゥさんはコーチたちに起きたハレーションをどう見ましたか? E:クラブが言ってるから、上面だけでやっておこう、わかってるふりをしておこうみたいな指導者もやっぱりいたと思うよ。けれども君の場合、ほぼなかったね。新しい概念に取り組んでみようという姿勢が見えた。自分たちの映像もしくは音声を撮って持ってきなさいと言えば、率先して「私、撮るわ」とすぐにやった。自分のビデオなどを持ち込んで「一緒に見よう!」とみんなのミーティングの材料にしたよね。最後まで出さない人だっていたのに(笑)。常に前向きに取り組んでいて感心しました。 ――そうだった? 開き直るのが早かったのかな(笑)。 E:指導者の進化、変容という面から見ると、ユリコは一番わかりやすい好例だったと思う。なぜかというと、君がいつも話すように、君は日本人として日本の文化の中で育った。いわゆる「武道的な精神」とともに。何につけても、師匠や先生がいて、その人に教えを請う。その主従関係があなたの中にすごく根強くありました。それを学び崩して、新たな育ちとは何かを追求したよね。 ――ああ、だからセルヒオに「改革のキーマンだった」て言われたのかな。日本的な教えを請うっていうような種類の関係性というものが、私の中で学習としてやっぱり身についてしまっていた。それで自分も教えなきゃ、ってなる。監督としての責任感が強く、何とかして勝たせなきゃと思うからこそ選手を抑圧するような振る舞いをしていたんだと思う。 E:それを打ち壊すことで、違うかたちの選手と監督の関係性が築けることに早くに気づけたよね。選手の成長に伴走してあげようっていう姿勢がすごく見えました。