「サイコロジスト」は何をする人? 欧州スポーツ界で重要性増し、ビジャレアルが10人採用する指導改革の要的存在の役割
ビジャレアルが10人、バルサが7人抱えるサイコロジスト
――ところで、(2023年9月現在)ビルバオでセルヒオとともに指導環境の改革に着手していますね。 E:つい先日のミーティングでうちの指導者たちに「選手は今季リーグ戦で何位になったか? なんていうのは5年後には忘れてるよ。君たちの実績や成果ではなく、君たちの存在そのものを思い出すものなんだ」と話したよ。選手に「このコーチに成長をサポートしてもらった」っていう感情をもたらすか。それが指導者としての価値でもあります。 ――サイコロジストの役割が大きくなっていることを実感しています。他のクラブでも雇用は進んでいるのかな? E:そう思いますね。存在感やその重要性は間違いなく増している。数としても増えたと思うな。スペインではフットボール界のみならず、スポーツ界全体で「サイコロジストは何をする人なのか」っていうのが明確に理解されるようになってきました。 ――それっていつからなのかな? E:2021年の東京オリンピック以降かな。パンデミック中にメンタルヘルスがさまざまな角度からニュースになり、同時にアスリートたちがメンタルの問題を自ら告白することが増えました。メンタルの不具合で一時療養したり、オリンピック欠場を決めた選手もいた。しかもそれがSNSの発達もあって世界中に拡散されました。それまでは足腰のけがは明かせても、こころの不調を言いづらかった。容易に理解されなかったのに。 ――コロナと、1年遅れで開催された東京オリンピックが、皮肉にも追い風になったんだね。 E:そうです。2022W杯カタール大会で、ルイス・エンリケ監督の横に座っていたのがサイコロジストでした。その存在が視覚化されたことは、僕らの業界ではすごくありがたかった。 ――ビジャレアルやビルバオ以外でサイコロジストを置いているチームはあるの? E:他クラブでは、例えばバルサは確か7人いたかな。レアル・マドリードは5人くらい。短い時間で流動するけれど、そのくらいの規模感です。恐らく、大きなクラブはどこも最低でもひとりは存在するでしょう。とはいえ、ビジャレアルのように10人以上配置しているクラブは珍しい。ビルバオはいま7人採用してくれている。つまるところ人件費が必要なので、必要性を感じていてもすぐに増やせないのが現状でしょうね。そこで貢献が認められれば増えていくと思います。 ――そういえば、聞いてみたかったの。最初に歴史をみんなで学んだよね。どう見えていた? E:あれはクレイジーだったね(笑)。ここでのクレイジーの意味は、まったく意味のないことを遂行したというクレージーではなく、普通やらないことをやったねってこと。セルヒオと僕らは、歴史や哲学に紐づいていると確信がありました。そうは言っても、フットボールと一見関係なさそうな学問でしょう。コーチたちがそこで得た学びを実践に落とし込めるかどうかは未知数だった。壮大なトライでした。 ――いや、ナイス・トライでした。 E:人間は、その学びを限定的にしてしまうと、成長の幅が小さくなってしまうと思うんだ。学びの領域を広げることが大切だよね。だから、みんなには「高速道路を走るつもりでアクセルをふかせ」ってよく言います。狭い小道に限定して学びというものを閉じてしまっていたら、指導者も選手も学びは深まらない。へえ、こんな本読んでるんだとか、こんな映画観たんだ、こんな人と話したの? っていうのがいい。ユリコもそうしてるよね。ナイス・トライです。 (本記事は竹書房刊の書籍『本音で向き合う。自分を疑って進む』から一部転載) ※次回連載記事は9月27日(金)に公開予定 <了>