PM2.5などの大気汚染による肺がんの割合が世界で増加、台湾では患者の3分の2が「非喫煙」
喫煙未経験者に多いタイプの肺がん
喫煙未経験者がかかる肺がんで最も多いタイプは、肺腺がんだ。 「喫煙者に多いタイプの肺がんは、白いビー玉がたくさん入った袋に黒いビー玉を1個入れたように見えます」と、米エール大学胸部外科部長のダニエル・ボッファ氏は説明する。「一方、たばこを吸ったことのない人のがんは、黒い砂を入れたようです」。はっきりした境界線がなく、ぼやけて見える傾向があるという。 必ずしもこのように明確な違いがあるとは限らないが、喫煙未経験の肺がん患者の半分は、現在または将来的にプレシジョン(精密)医療薬による治療が可能な、特定の遺伝子変異をもつがんだ。 化学療法のような効果の低い無差別攻撃に頼ることなく、特定の変異を狙い、がんの成長を妨げる治療ができると、国立台湾大学医学部の副学部長である林孟暐(リン・モンウェイ)氏は言う。一方、喫煙者の場合は、同じ治療が10%の患者にしか有効ではない。 このようにはっきりした特徴と治療法がある喫煙未経験者の肺がんは「別の種類の病気と考えるべきでしょう」と、林氏は言う。
喫煙未経験者の肺がん検診に動き出した台湾
肺がんの原因は喫煙だけという誤解が広がっているせいで、たばこを吸ったことがない人は、病気が最終ステージに進行するまで気づかないことが多い。 しかも、肺には神経終末がほとんどないため、がんが成長しても痛みや不快感を感じにくい。「肺がんの最も一般的な症状は、症状がないということです」と話すのは、国立台湾大学の元学長で呼吸器科医の楊泮池(ヤン・パンチ)氏だ。 検診は早期発見の一つの手だが、2011年当時、検診で肺がん死亡率が下がることを示す唯一の証拠は、米国で実施された「全米肺がん検診試験(NLST)」の結果だけだった。しかも、試験の対象者はほとんどが白人のヘビースモーカーだった。 「主に白人を対象にした検証に基づく米国の検診プログラムだけに従っていては、喫煙歴がない(台湾の)肺がん患者の3分の2を見逃してしまいます」と、楊氏は言う。 そこで楊氏は2015年に、台湾の喫煙未経験者向けの肺がん検診試験「TALENT」を立ち上げた。対象者は、喫煙歴がないかごくわずかであることに加え、家族に肺がん患者がいる、または換気扇のない調理場で働いているといったリスク要因がある人だ(大気汚染はここでは考慮されていない。大気汚染と肺がんの関連性はすでによく知られていることと、汚染にさらされている度合いを数値化するのが難しかったことが理由だと林氏は言う)。 1万2000人以上が検診を受けた後、楊氏は2021年の世界肺がん学会でこの結果を発表し、100人あたり2.1人の肺がん患者が見つかったことを示した。ヘビースモーカーだけを対象にしたNLSTでは肺がん発見率が1.1%だったことから、楊氏は「私たちの(検診の対象とする)基準のほうが効果的かもしれません」と話す。 台湾ではすでに、肺がん検診が早期発見につながるという証拠が示されている。台湾の全土で、ステージIIIとIVで初めて肺がんが見つかる割合は2006~2011年の間に71%だったのが、2015~2020年の間には34%にまで下がっていた。そしてその分、早期発見の割合は増えた。 その結果多くの命が救われたと、楊氏は強調する。肺がんの5年生存率は、22%から55%へと2倍以上に上昇した。 ちなみに、米国がん協会によれば、米国では現在、肺がんの5年生存率は25%だ(編注:国立がん研究センターがまとめた院内がん登録生存率集計によると、日本では2015年診断の5年生存率は45.1%)。