変貌するアメリカの政治報道 保守・リベラル両極への「分極化」進む 上智大学教授・前嶋和弘
「保守」「リベラル」片側からの政治報道
MSNBCとフォックス・ニュースチャンネルに限らず、アメリカのメディアにおいて、「保守」と「リベラル」の両極の視点からの政治情報提供が少しずつ目立つようになっています。この「メディアの分極化」にはいくつかの段階があります。まず、保守系のトークラジオ(聴取者参加型で政治問題や社会問題を話し合うラジオ番組)が、保守派のニーズに合った情報番組がなかった中で、1990年に一大ブームとなっていきました。保守派の不満のはけ口として台頭してきたといってもいいかもしれません。最も代表的なラッシュ・リンボウに加え、ショーン・ハニティら保守派のトークラジオホストは、政治アクターの一人として、言動そのものが注目されるようになっていきました。 この動きを見て、1996年に開局した前述のフォックス・ニュースチャンネルは、保守の立場を鮮明にした「報道」の提供を開始します。ハニティらトークラジオホストもそのまま司会に起用したため、“テレビ版保守派トークラジオ”そのものでした。フォックス・ニュースチャンネルの視聴者数は、老舗のCNNを超え、24時間ニュース専門局の雄としての地位を築いていきました。 さらには、2007年に保守派のルパート・マードックの「ウォールストリートジャーナル」紙の買収などによって、同紙の政治的立場も前よりも保守化したといわれています。新聞は長年リベラル色が強いといわれてきましたが、ラジオとテレビだけでなく、一部ではありますが新聞の保守色も強くなっていきました。 保守派に比べ、遅れていましたが、前述のMSNBCのように過去10年間でリベラル側に加担した政治情報の提供も急に目立ちつつあります。MSNBCそのものは、1996年にマイクロソフト(MS)とNBCの合弁で開局しましたが(マイクロソフトはその後保有株を売却)、当初は政治的には保守でもリベラルでもどちらの立ち位置でもなかったのですが、CNNとフォックス・ニュースチャンネルの間に隠れてしまっていました。その中で、10年ほど前からリベラル派に与した情報提供を行うことで、視聴者数を増やしていきます。また、リベラル派の政治トークラジオ番組も定着していきました。