変貌するアメリカの政治報道 保守・リベラル両極への「分極化」進む 上智大学教授・前嶋和弘
黒人射殺事件報道をめぐる「分極化」
アメリカ国内を大きく揺るがせた、アフリカ系アメリカ人(黒人)に対する警察の取り締まり手法をめぐる抗議デモについての報道が典型的かもしれません。注目を集めたミズーリ州ファーガソン市とニューヨーク市の2つの事件では、いずれの大陪審も、アフリカ系男性を死亡させた白人警察官に対して不起訴処分を決めたため、アフリカ系を中心とする抗議デモが広がり、その中の一部が暴徒化しました。リベラル系の代表格であるCATV・衛星放送の24時間ニュース専門局のMSNBCは事件発生から頻繁にこの問題を扱い、特に、看板番組の「ザ・レーチェル・マドウ・ショー」では、事件発生から頻繁にこの問題を扱い、「アフリカ系に対する白人の暴力」「差別」を強調しました。 これに対して、同じくCATV・衛星放送の24時間ニュース専門局でも保守系のフォックス・ニュースチャンネルは、事件の経過は詳細に伝えたものの、2つの事件ではいずれもアフリカ系男性が事前に犯罪行為を行っていたことを繰り返し伝えたほか、暴徒化するデモ隊の略奪行為に焦点を当てるような報じ方をしました。中でも、フォックス・ニュースチャンネルで最大の視聴者数を誇る「ザ・オライリー・ファクター」のキャスター、ビル・オライリーは事件やデモそのものに辛辣です。例えば、12月5日の放送では「警察が若いアフリカ系少年を狙い撃ちにしているというのは真っ赤な嘘」「デモはプロの扇動家がこの事件を使って、あおっている」と指摘しています。 ただ、オライリーは「ファーガソン市の事件に比べ、死亡した男性が警官に与える脅威は極めて少なかったため、ニューヨーク市の事件については起訴処分が適切」(12月4日放送)とは指摘していますが、いずれにしろ、24時間ニュース専門局の看板番組でも、保守とリベラルでは、全く別の視点から伝えています。CATVなどの設定にもよりますが、MSNBCとフォックス・ニュースチャンネルは隣り合わせのチャンネルに設定されていることが多いため、チャンネルを変えると前のチャンネルで伝えられていたことの裏返しのような世界が見えてくることに驚きます。