ソフトウェアを“手の内化”せよ!「ソフトウェアファースト」で挑むデジタル変革の道
コロナ禍で日本のデジタル化は一気に加速したものの、その変革は表面的なものにとどまっている。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、ITを価値創造に生かせていない日本企業の状況に「真の変革には『ソフトウェアファースト』の考え方で、ITを自社の武器として活用する意識改革が不可欠」と説く。 ● パンデミックで加速 5年で激変した日本のデジタル化 「10年一昔」とよく言いますが、政治や経済の変化が加速する現代では「5年一昔」と言っても過言ではありません。特にITを中心とした技術の進化は目覚ましく、5年前の状況は遠い過去に感じられます。 私の著書『ソフトウェアファースト』の第1版が出版されたのは、5年前の2019年です。5年がたった2024年の今、日本のデジタル化の進展には劇的なものがありました。この変化を加速させた最大の要因は、何といっても2020年に始まった新型コロナウイルスによるパンデミックをおいてほかにはありません。 マイクロソフトは、パンデミックの影響で「2年分のデジタル変革がわずか2カ月で起きた」と指摘しています。パンデミックは人々の生活や働き方を根本から変えました。飲食業界では、テイクアウトやデリバリー、スマートフォンによる注文システムが急速に普及。そのほかの企業でも在宅勤務が広まり、急速にデジタルシフトを迫られました。特に、ビデオ会議システムやオンラインホワイトボードの利用は一般化して今に至ります。 コロナ禍で急速に進展したDXの例としては、オンラインサービスとイベントの変化が挙げられます。オンラインショッピングやデリバリーサービスの需要は急増し、多くの企業が体制の整備を急ぎました。これらのサービスは、外出制限が撤廃された後も日常生活に欠かせないインフラとして定着しています。
イベントの分野では、多くのリアルイベントがオンライン形式にシフトしました。しかし、コロナ禍の収束とともに対面でのコミュニケーションの価値が再認識され、リアルイベントへの回帰も進んでいます。 それでも、オンラインイベントが完全に消えたわけではありません。オンラインイベントには、移動の手間がなく世界中から参加できるという利点があります。現在では、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッド形式が定着しつつあります。特に大規模な国際会議では、オンライン参加のオプションを提供するケースが増えています。 この連載の以前の記事『エバーノート創業者も予測「コロナ後、世界はハイブリッドになる」の真意』でも紹介しましたが、Evernote(エバーノート)創業者のフィル・リービン氏も「我々の世界はハイブリッドになる」と語っていました。DXの進展により、イベント業界においてはリアルとオンラインのバランスを取るハイブリッド形式が今後の主流となっていくでしょう。 しかし、パンデミックを経て進化したものがある一方で、変わらないもの、あるいは進化が中途半端に感じられるものもあります。例えば、多くの飲食店で見られるようになったQRコードによる注文システムは便利ではあるものの、顧客志向というよりは店舗側の効率化の側面が強いように感じられます。また、リモートワークに対する見直しを進める企業も多いのが現状。そんな今こそ、デジタル変革の「本質」の再考が求められています。 ● デジタル赤字に見る 日本企業のIT活用の遅れ このような5年を経て、私は『ソフトウェアファースト』を改訂し、第2版を出す決断をしました。それは、この激動の時代を経験したにもかかわらず、日本企業や社会全体において、ITに対する根本的な理解が依然として欠けていると感じたからです。 すでに触れたように、パンデミックの影響でDXは一気に進みました。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れる、という諺(ことわざ)の通り、パンデミックが収束に向かうと、多くの企業で再び従来の方法に戻そうとする傾向が見られます。また、DXが進んだように見えても、それが一時的、あるいは局所的な対応にとどまり、「真に根付いたデジタル化」とは言い難い状況が多いと感じています。