【毎日書評】それ、過剰敬語です。不自然な「盛りすぎことば」使っていませんか?
「退院させていただきました」
“へりくだりすぎ表現”の代表格としてすぐに思い浮かぶのも、やはり「させていただく」ではないでしょうか。病欠していた人が退院後に出社した際、「おかげさまで、退院させていただきました」と報告したり、会社を退職した人が「円満退社させていただきました」などとSNSに告知したりすることはよくありますが、これらの表現は過剰です。 「させていただく」を『広辞苑 第七版』(岩波書店)で引くと、こうあります。 “相手の指示を頂戴してするという卑下した形で自分の動作を謙遜した意を表す。最初、上下関係を強く意識する社会で使われ、第二次対戦後一般に広がった言い方” (74ページより) つまり上記の例でいえば、退院を許可したのは主治医、退職を許可したのは会社。聞き手に許可をもらったわけではないのに、卑下した形の表現を使うのだとしたら、明らかにへりくだりすぎなのです。そのため、「退院させていただきました」は「退院いたしました」、「円満退社させていただきました」は「円満退社いたしました」とするべき。(74ページより)
「こちらにご記入いただいてもよろしいですか」
この場合、本来であれば「こちらにご記入ください」でいいはず。物足りなさを感じるのであれば「どうぞ」を頭につけて、「どうぞ、こちらにご記入ください」とすれば、ていねいな印象が生まれます。 それにしても、いくら空気を読む時代とはいえ、ここまでへりくだる必要があるでしょうか。人に何かを頼むとき、さまざまな疑問系の依頼文を使うことは、これまでにもありました。 「こちらにご記入くださいますか」 「こちらにご記入くださいませんか」 「こちらにご記入いただけますか」 「こちらにご記入いただけませんか」 「こちらにご記入いただきたいのですが」 こうした単なる依頼の表現なら何の問題もありません。 (84~85ページより) しかし、わざわざ「ここに記入してもらってもいいか」と許可を求めているところに違和感があるということです。(84ページより)