分解されないから、永遠に残る化学物質「PFAS(ピーファス)」は、なにが怖い?
身近な製品に使われてきたPFAS。2000年頃から明らかになったその有害性
――PFASはどんな製品に使われてきたのでしょうか。 原田さん(以下、敬称略):1940年代に開発されてから、挙げていけばきりがないほどさまざまな製品に使われてきました。一例を挙げると、防水スプレーや、レインコート、フライパンのコーティング、ハンバーガーなどの耐油性の包み紙などです。これらの製造にはPFASの一種であるPFOS、PFOAが使われてきました。 また、空港や基地などでは、火災が起きた際にガソリンに引火して大きな火災となりやすいため、一般的な消火剤でなく、泡消火剤というものが配備されているのですが、この泡消火剤にもPFASの一種であるPFOSが使われていました。 ――そのPFASが環境汚染につながっていると問題視されるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。 原田:1990年代の後半くらいからです。一部の研究者から、「PFASは壊れにくい性質を持っているため、自然環境中でも分解されないのではないか」という指摘がされ始めたのがこの頃でした。 そして、PFAS問題がとりわけ世間の注目を集めるようになったきっかけが、2000年に化学メーカーの3M社が、環境や生態系への汚染を理由にPFOS、PFOAの製造を自主的に中止すると発表したことです。 PFOS、PFOAは3M(スリーエム)社が自社製品として積極的に製造してきたものであったため、産業界にも衝撃を与えました。 ――その後の動向は、どうなっていったのでしょうか。 原田:3M社の発表を受けて、環境の研究者からも注目が集まるようになり、現状どれだけPFASが広がっているかという調査が各国で行われ始めました。 その結果、世界の各地でPFASが検出されるような状況となっていて、汚染がかなり広がっているということが分かったんです。 こういった結果を受けて、最初に動き出したのはアメリカで、PFOS、PFOAを環境中に排出させないよう、企業に向けて強い要請を出しました。アメリカはグローバル企業も多く、そういった取り組みが世界に広がっていくきっかけにもなりました。 ――そこから世界各地で規制が始まっていったのですか。 原田:そうですね。一番大きな動きとしては、2009年にストックホルム条約(※)で、PFOSが規制の対象に指定されたことです。そのため条約加盟国ではPFOSの新規製造を原則中止することになり、日本もストックホルム条約を批准(ひじゅん)していますので、同様の対応をとることになりました。 その後、2019年にはPFOAも同様にストックホルム条約で規制の対象となり、少しずつ法律的な枠組みも作られてきているところです。 ※残留性有機汚染物質(毒性が強く、残留性が高いなど人体および環境への悪影響を有する化学物質のこと)の廃絶や、削減を国際的に協力して行うために2001年に採択された条約。POPs条約とも呼ぶ ――実際にPFASが人体に与える影響について教えてください。 原田:PFOS、PFOAについてはこれまで多くの研究や調査が行われており、さまざまなことが明らかになってきています。 一番有名なデータは、1990年代にアメリカの化学メーカーであるデュポン社の工場があった汚染事例(※)において、地域の住民7万人ほどのPFAS摂取量と健康影響を調査した結果です。 動脈硬化にもつながる血液中のコレステロール値の高さや、腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)、妊娠高血圧症との間に関連性が高いという結論が発表されました。関連性が高いというのは、必ずその病気になるというものではないが、発症する確率、リスクが上昇しているということです。 ※デュポン社の工場からの廃棄物によって土地が汚染され、190頭もの牛が病死したことに始まった、ウェストバージニア州とオハイオ州の住民7万人を原告団とする一大集団訴訟に発展した事例。裁判の結果、住民側が和解による損害賠償を勝ち取り、和解金の支払いと住民の健康調査を行うことになった ――他にも人体への影響はあるのでしょうか。 原田:母体の血液中PFAS濃度が高かった場合、生まれてきた子どもの体重が低下する傾向にあるといわれています。アメリカやヨーロッパで行われた調査では、子どもの免疫力に影響が出るともいわれており、ワクチンを打ったあとに血液中に抗体ができづらいという事例もあるようです。他にも肝臓への影響もあるという研究結果も出ています。