分解されないから、永遠に残る化学物質「PFAS(ピーファス)」は、なにが怖い?
暫定目標値を超える河川、地下水は111地点。検査の義務化も課題
――日本は、PFAS問題に対してどのような調査が行われてきたのでしょうか。 原田:2002年に私も在籍していた調査チームが発足したのを皮切りに、各地で調査が始まりました。 まず、全国79カ所の河川を調査したところ、東京の多摩川ではPFOSが、大阪の淀川ではPFOAが高濃度で検出されました。多摩川は東京都福生市にある横田基地、淀川は空調メーカーであり、フッ素化学メーカーでもあるダイキン工業の淀川製作所が流出元だった可能性が考えられました。 その後も各地で調査が続きました。2014年から2016年の沖縄県が独自の調査で、沖縄県中部の水道水の調査を行ったところ、高いPFAS濃度であったことを公表しました。2016年のアメリカの目標値だった「PFAS、PFOA合算で1リットル中70ナノグラム以下」という値を超えていました。 その後、2019年に沖縄県宜野湾市の住民から京都大学に依頼があり、地域住民の血液検査を行いました。すると、PFASが高く検出された地域の浄水場の水道水を使っている人たちは、血液中のPFAS濃度も高くなることが判明し、水道水の影響が確かにあることが判明したんです。 こういった事態から県知事の要請もあり、2020年に厚生労働省と環境省が水道水や地下水などに関する暫定目標値を設定することになりました。 PFOSとPFOAを合わせて、1リットルあたり50ナノグラムというのがその数値です。 ――日本でこの目標値を超えている地点は、現状どのくらいあるのでしょうか。 原田:2020年度の河川、地下水の調査では37地点が該当していたのですが、2022年度の環境省の調査によると、東京、神奈川、大阪、兵庫、沖縄など16都府県の111地点で目標値を超えるという結果が出ました。このうちいくつかでは水道水にも影響を与えています。 PFOS、PFOAが製造されなくなって10年以上が経過していますが、過去に使っていたものが土壌や地下水の中に残っていることが大きな問題で、今後も新たな場所から発見されることもあると思います。 ――それに対して日本では、何か対策が取られているのでしょうか。 原田:水道の検査は随時行われており、濃度が高く検出された場合にはそれを下げるよう取り組みがされているところです。水の浄化方法はいくつかあるのですが、活性炭を使用した処理というのがよく行われています。 ただ、検査は義務ではありませんので、見過ごされる場所もありますし、自治体が管理していない企業や個人が管理している水道も中にはあるので、どんな状況か全容が明らかになっていません。2024年5月には環境省、国土交通省が検査結果の報告を要請しましたが義務ではありません。 水道水の安全性を確保するためには、検査が義務となるように行政が動いてくれることを望んでいます。 ――他にも行政に求めることはありますでしょうか。 原田:やはり、法整備です。PFASを使用してきた企業がきちんと処理を行い、汚染が広がらないようにするためには、排水に対する規制が必要ですが、法律上の効力がないと、自治体が企業に要請することもできません。 日本の法律には「水質汚濁防止法」、「土壌汚染対策法」という、運用次第では強力な効力を発揮する法律がありますので、こちらをPFASでも運用できるようにすれば排水対策、土壌汚染対策は大きく前進するはずです。