元巨人スカウト部長が語るドラフト会議の裏側「逆指名選手たちは“現実主義者”だった」
いよいよ明日に迫ったドラフト会議。昨年、NPBに入団したのは育成選手を合わせてわずか122人だ。 【動画】なぜ外れ1位だったのか?巨人の元スカウト部長が語る「坂本勇人獲得」の裏側 そんなアマチュア選手たちの実力を見極めるのは12球団のスカウトである。12球団のスカウトは選手のどこを評価しているのだろうか。またどんな苦労があるのだろうか。 スカウトとして大洋・横浜、巨人で数多くの選手獲得に携わり、巨人ではスカウト部長まで務め、現在は東海大の監督を務める長谷川国利氏に聞いた。
スカウトは”選手を見切る力”が一番大事
――現役を引退されてからすぐにスカウトになられたんですか? 長谷川監督 スコアラーのお手伝いはしたことありますけれども、最初からスカウトに就任しました。何の実績もあるわけでもないですし、東海大相模を出て東海大学で教育を受けた僕自身のプロセスを、当時の大洋ホエールズさんに評価いただいて、スカウト活動を始めさせていただきました。 ――実際にスカウト活動が始まって苦労したことなどはありましたか? 長谷川監督 スカウトは足の速さや肩の強さ、球の速さや変化球のキレといったような選手の能力を報告するのも大事ですが、大切なのは『決断力』です。「能力がいいのはわかった。じゃあお前はその選手が欲しいのか、欲しくないのか。その選手がプロ野球に入ってどのような形で活躍するのか。それをはっきり口にしてくれ」と先輩から言われました。それは30年間スカウトをやった中でも1番大事なことだろうと思いますね。 ――その決断力というのは、プロで活躍できるかどうかというだけではなく、プロでは通用しないと判断することも含まれているんですね。 長谷川監督 そうです。この選手は大学に行った方がいいとか、今すぐにプロに入るよりは体の成長度合いを見て大学・社会人で安定した成績を残したら、もし可能性があるならプロ野球に来た方がいい、などと判断するという話です。 青田買いで選手を取るのも1つの作戦かもしれませんけど、それはすごく大きなプロ野球の問題だと思うんです。その辺に買い物に行って「安かったから買っちゃえと」いうのとは違いますからね。スカウトは選手の兄貴にもなり、親父にもなり、時には母親にもなる。親代わりのような大きな責任を担う仕事ですから。 ――スカウト時代に初めてその決断を下した選手や印象残っている選手を教えてください。 長谷川監督 初めて預からせていただいた選手は、石本 豊(投手・藤代紫水)でした。投手をしていたんですけど、非常にパワーがあって、スカウト初年度にドラフト5位で指名させていただきました。練習にお邪魔した時、監督さんとのご縁もあって、木製のバットを使用する気遣いもいただいて、見た時にはこの子すごいなっていう印象は残りました。 ――全国を飛び回るスカウトという仕事は、体力的にも大変だと思いますが。 長谷川監督 スカウトになったばかりのころは、携帯電話はありませんので、各地の接待できるようなお店とタクシー会社を3件ぐらいは必ず控えていました。ただもちろん直接監督さんと連絡はできません。全国の高校の住所と電話番号が載っている全国高等学校の学校長会というものがあって、その中から自分の担当エリアのところをコピーして持ち歩いていましたし、スピードガンだって大きいバッテリーを2つ持って修学旅行みたいな荷物で移動していました。 ――さまざまな情報は先輩方からの教えで学ぶんですか? 長谷川監督 アマチュア時代の知り合いの方からが多いですね。そういう中でお付き合いをしながら、「ここの店は野球の関係者が集まるよ」などと紹介していただくことがありました。逆に、“親密な話”をする時はその方たちが集まるお店じゃまずいので、また違ったお店にいったりしていました。 ――情報収集でかなり苦労されたんですね。 長谷川監督 今は携帯電話もありますし、北海道から沖縄まで高校野球地方大会の組み合わせもネットニュースなどで出るじゃないですか。僕らの頃はありませんでした。抽選日を聞いたら、各地の地元紙を買って試合予定を確認し、観戦の予定を組んだりしていました。