“国会軽視”で躓いた岸政権 安保法案成立目指す安倍政権は?
新安保条約の強行採決で反発招く
大量議席を得た事で岸は就任2年目の58年に警職法改正案を国会に提出、これが社会党をはじめ国民の幅広い反発を生む。その結果、法案は撤回された。岸は外交で高評価を得たが国会運営で躓いたのである。自民党内の反岸派はこの躓きを見て岸に慎重審議を求めるようになる。60年1月の新安保条約の調印式で、岸はアイゼンハワー大統領の訪日を確約させた。 日本の国会が新安保条約を承認し、初の米国大統領訪日が実現すれば、秋の自民党総裁選は再選が確実になる。逆に言えば岸は大統領訪日までに何としても新安保条約を成立させなければならない。それが再び岸に強引な国会運営を強いた。大統領訪日1か月前の5月19日、自民党は抵抗する野党議員を力で排除し条約を強行採決する。これが国民の怒りに火をつけた。条約が自然成立する6月19日まで国会は連日デモ隊に囲まれ、警察との衝突で女子大性が死亡した。米国は日本国民の反米感情が高まる事を怖れて大統領訪米を中止、岸は退陣表明せざるを得なくなった。
5月に法案提出、大幅な国会延長
安倍首相の集団的自衛権行使容認は岸と違い、対米自立のためではない。むしろ世界の警察官を続けられなくなった米国からの要求である。米国の要求を受け入れるならそれに見合う何かを米国から取らなければ「取引の出来る男」と一目置かれる事にはならないが、「抑止力が高まる」としか言えないのを見ると、「取引の出来る男ではない」と米国は考える。押せばどんどん引く男である。 抑止力は現行の安保条約で担保されている筈だ。基地を提供しているのに防衛の義務を果たさないなら、安保条約は解消するだけの話である。吉田茂も岸信介も米国が日本人の血を流させたい事を知っていた。だから日本は集団的自衛権を持ってはいるが使えないと解釈しそれを歯止めにしてきた。それに米国は不満だったが、その圧力を日本の歴代政権はかわしてきた。それが安倍首相の「弱腰外交」によって歯止めが壊されそうになっている。 だから安倍首相は国民的議論をさせたくはない。国会で時間をかけて議論する事も避けたい。昨年7月1日に閣議決定したにもかかわらず、それに伴う立法作業を今年まで放置し、昨年末の総選挙で争点化する事もなく、今頃になって「選挙公約に書いてあるので国民の支持を得た」と詐欺師まがいの発言をする。重要法案を通常国会に提出するタイムリミットは3月中が決まりである。ところが安保法案が提出されたのは5月半ばで、会期末まで1か月しかない時点であった。そして安倍政権は法案を7月末までに成立させようと画策した。