【運動科学者が明かす】続けると健康を害するかもしれないのに…一流選手は決してやらない「ダメな筋トレ」が決してなくならない深いワケ
超一流は必ず「レフパワー」を身につけている
筋トレを「筋量と筋力を増大させる手段」にすぎないと思っている人も多いことでしょうが、筋量と筋力の増大は、筋トレの一面──心技体の「体」の部分の、ほんの一部──にすぎません。 筋トレとは本来、身体のありかたそのもの、意識(心)、スキル(技)、認識力、はては人間関係の能力など、脳が司つかさどる多様な能力をもその要素として含んだ、トータルな人間現象としてとらえられるべきものであり、ラフパワーではなく、レフパワーを向上させるものでなくてはいけないのです。 すでに見てきたとおり、筋トレにラフに打ち込んでいる人ほど、身体の全組織を緩解させる必要があることを忘れてしまい、また、センター(軸)を通す必要があることまでを忘れて打ち込んでしまいます。そのような人は例外なく、強い筋出力をするときに顔を歪め、うめき声をあげ、力みかえっています。 では、レフな筋トレに取り組んでいるアスリートたちはどうかというと、まったく対照的に、ゆるゆるにゆるみきって、素晴らしくバランスの取れたセンター(軸)が通り、穏やかに飄々(ひょうひょう)とプレーに取り組んでいます。その表情、身のこなし、そして言動は、すべてレフパワーによるものです。 以前の記事では、その身体使いから見て、日々レフな筋トレに取り組みレフパワーを高めていた(あるいは現在も高めつつある)と思われるアスリートを紹介しました。イチロー、大谷翔平、ウサイン・ボルトの3人です。 真のトップ・オブ・トップは、ほかのアスリートと比べてもさらにゆるみきって、圧倒的にバランスの取れたセンター(軸)が通り、まったく力んでおらず、穏やかで、外からは冷静に見えるし、内面では実に冷静に集中しているのです。 彼らはクールな表情で驚異的なパフォーマンスをこなしてみせます。それが観客を引きつけますが、試合中に限らず、トレーニング中はもちろんのこと、練習から生活のあらゆる場面にわたって、高く洗練された身体活動を続けています。それこそが運動から行動、生活全般の「レフ化」であり、脳のレフ化による「生き方のレフ化」です。 選手のメンタルもレフ化されてきますが、そのことは表情や発言からわかります。一挙手一投足、言葉の一つ一つに精神性が現れ、見ている人がひきつけられるのです。 だからこそ私は、筋トレを全人的な現象、つまり人間のさまざまな能力領域に影響を与える現象だと説いているのです。筋トレブームと言われて久しい昨今、レフ化の視点が欠けているのは、恐ろしいほどにもったいないことと言わざるを得ません。
高岡 英夫