なぜ学校の「色覚検査」はなくなった? “色覚異常”や“色覚障害”から呼び方も変化、理由を眼科医が解説
中年層以上の人は、小学校で「色覚検査」を受けた人も多いでしょう。同系色のドットの集合の中に描かれた、別の色の数字が読み取れるか…といったものです。ですが現在は、ほとんどの学校で実施されていないそう。かつては、「色覚異常」「色覚障害」と言われていた呼び方も、「色覚多様性(特性)」と変わっています。一方で、予備校などでは「見えづらい」色のチョークの使用を止めたり、「色覚チョーク」という商品が使われたりもしています。検査はしなくなっても配慮は増えた? そもそも検査をしないと不都合は起こる? 医療法人社団久視会いわみ眼科の岩見久司先生に、背景や現状を聞きました。 【写真】“色覚障害”告白したコムドットやまと、「ピンクに見えた」アンミカのドレス ■「異常」「障害」から「多様性」に変化、「過剰に差別を受ける原因に」 ――まず、「色覚多様性(特性)」とはどんなものですか? 「色には名前がついておりますが、実はそれぞれの人によって色の見え方には差があり、同じ色と思っていても実は微妙に違うように感じています。これは、目の中の色を感じる細胞である錐体(すいたい)細胞の分布の違いによります。この、錐体細胞が体質によって異なり、色の感じ方が異なる人がまずまずの割合で存在します。これを色覚多様性と呼びます。色覚多様性にはいくつかの種類がありますが、赤と緑の違いがわかりにくいことが多いです」 ――以前は「色覚異常」「色覚障害」という言葉が使われていたそうですが、いつから「色覚多様性(特性)」に変わったのでしょうか。 「かつては色覚多様性のある方は、色の違いがわかりにくいことから職業上の問題等を抱えていると考えられてきました。しかし、この問題はあまり重要な違いではなく、本当に問題になるのはごく特殊な条件である場面であり、この違いは些細なものであることが分かってきました。そのため、ハンディキャップを意味する『異常』や『障害』という言葉を避け、個人差を意味する『多様性』という言葉が使われるようになってきました」 ――昔は学校でも色覚検査が実施されていましたが、現在は任意に。必須でなくなった背景や現状は? 「色覚検査の由来は19世紀末にさかのぼるそうです。鉄道の信号の色に赤と緑が導入され、その判別が得意ではない人々の存在が明らかになりました。さらに、色覚多様性は遺伝によって決まることがわかり、かつての優生学思想のような誤解から早期に発見すべきとして学校で検査をされるようになりました。 しかし、色覚多様性のある方々も、その後の生活経験によって『条件が良ければわかる』『何となくわかる』などの適応を得ることが多いです。色覚多様性は、多くはそれほど問題がないにもかかわらず、過剰に差別を受けるなどの原因になってきました。そのため、21世紀に入って学校における色覚全例検査は廃止されました。しかし、生活上の困難もあり得ることから、自らの状態を知っておくべきとして任意検査で行われるようになりました」