【運動科学者が明かす】続けると健康を害するかもしれないのに…一流選手は決してやらない「ダメな筋トレ」が決してなくならない深いワケ
「やり切った感」という避けがたい罠
ラフ筋トレがなくならない、さらなる原因として挙げられるのが、ラフ筋トレによって得られる2つの満足感、「筋肉隆々の満足感と自信」と「やり切った感」です。前者の「筋肉隆々の満足感と自信」はあまりにわかりやす過ぎるので、論じるまでもないでしょう。記事では後者だけに話を絞ります。 ここで、ちょっと思考実験をしてみましょう。腕立て伏せをしている自分を想像してください。あるいは、本書を脇に置いて横目で見ながら、実際にやってくださっても構いません。回数は筋力(筋持久力も含む)の強さに応じて適切に選んで決めてください。 まず軽くできる適切な回数を10~15回の間で選んで決定、その回数をnとし、全力でn回、プッシュアップしてください。ちょっと疲れましたね。 続けて同じペースで2n回までがんばってみましょう。三角筋や上腕三頭筋がパンパンになってきました。 さらに3n回までペースを落とさずに続けてください。限界でしょうか? いや、ここで挫けてはいけません。まだがんばってみましょう。 ペースを落とさずに4n回目、ぐっと曲げた肘を「ッッッアアアア!」と絶叫しながら伸ばしきって、あなたは見事、腕立て伏せ4n回をやり終えました。n=10の人で40回、n=50の人で200回です。 何を感じますか? 筋肉の張りや疲労感とともに、妥協せず、甘えず、限界までやり切ったという心地よさが残るのではないでしょうか。それこそが「やり切った感」です。 ラフに筋トレに打ち込んでいる人は、いつしか筋トレよりも、この「やり切った感」を味わうためにトレーニングに励むようになります。トレーニング以上に、トレーニング後の感覚がある種の“生きがい”になってしまう──そういう現象が見受けられるのです。 もちろん、それも間違いなくひとつの大事な価値観ですが、ラフ筋トレを続けても、人としての能力の向上はかなり早い段階のどこかで頭打ちになります。さらに、過剰にやり続ければ健康を害することにもなりかねません。同じ負荷の筋トレをレフにやれば健康増進につながり、ラフにやれば健康を損ねるリスクが高くなることが科学的に解明できています。 固く肥大しモコモコした扱いにくい筋肉、そして一時的な「やり切った感」の2つと引き換えに、「健康」や「人としての成長」から遠ざかっているとしたら、それは誰にとっても実にもったいなく、残念なことではないでしょうか?