折り畳み電動自転車からZガンダムへの暴走
モーターによるアシストが、かつてとは比べものにならないぐらい自然でさりげないものになっているのだ。以前の電動アシスト自転車は、ちょっとペダルを踏み込むと「さあ、アシストしますぜ」と言わんばかりに「がこん」といきなりモーターが回って、慣れないとぎくしゃくするというものだったが、今や本当に自分の脚力が強くなったかのように自然でさりげなく、しかも必要十分の力でアシストしてくれる。まったく普通の自転車と同じ感覚で乗れるではないか。 最初の電動アシスト自転車が発売されたのはいつだったかと調べてみる。1993年にヤマハが発売した「ヤマハPAS」が最初だった。それから31年、電動アシスト自転車は、ここまで進歩したのかと感心してしまった。 ●アレはZガンダムだったのか! このところ、何かとロバート・A・ハインラインのSF小説を引き合いに出しているのだけれど、電動アシスト自転車は、憲法記念日に事寄せて人権について書いた回(「ハインライン『宇宙の戦士』を憲法記念日に読む」)に取り上げた「宇宙の戦士」に登場する兵器「パワードスーツ」そのものである。 「宇宙の戦士」の矢野徹氏の翻訳では、パワードスーツは「強化服」という日本語になっている。 強化服の働きを説明しよう。服の内部には何百もの圧力伝達装置(※ルビで「プレッシャー・リセプター」)がある。腕なら腕の運動でそれが押されると、伝達装置がその圧力を増幅し、服を着ている本人と同じ運動を起こすように強化服に命令する。 (中略) 強化服のフィードバックは、その服を着ている者の動きをどんなことでも正確に伝えるが、その力はおそろしいほど強くなるのだ。 (R・A・ハインライン『宇宙の戦士』ハヤカワSF文庫 より) 電動アシスト自転車は、ペダルを踏む力をトルクセンサーで検出し、相応の電力をモーターに供給して漕ぐ足の力をアシストする。パワードスーツと同じだ。このアイデアは、現在、人間が操作するマニピュレーターなどの装置でも使われている。ハインラインの想像力恐るべし。 実はハインラインは「ウォルド(Waldo)」(1942年、第2次世界大戦中だ!)という短編で、人の操作をトレースし力を増幅するロボットハンドを登場させていて、「宇宙の戦士」のパワードスーツはその発展型なのだけれど、それはさておき。 パワードスーツにヒントを得て「ロボットに乗るのではなくロボットを“着る”」というコンセプトを打ち出したのが、あのテレビアニメ「機動戦士ガンダム」(1979年 富野由悠季監督)のモビルスーツなのだから、電動アシスト自転車こそ、2024年の今、一番身近にあるモビルスーツなのだ!……と言えないこともない。 モビルスーツはその後、続編の「機動戦士Zガンダム」(1985年)で、変形するようになり、さらにその次の「機動戦士ガンダムZZ」(1986年)では2機のメカが合体して主役のガンダムZZに変形するようになった。テレビアニメをスポンサードするおもちゃメーカーの「子どもがあれこれいじくって楽しく遊べるおもちゃとしてのロボット」という都合から生まれたとはいえ、「変形と合体」は日本のアニメのロボットの大きな特徴であり――と考えてきて気がついた。 現在、市場では折り畳み式の電動アシスト自転車というものも販売されている。あれって、変形モビルスーツじゃないか。 折り畳み電動アシスト自転車は、Zガンダムだったのか!