【解説】35人死亡の無差別殺傷事件で“情報統制”か…SNSには真相解明を望む声も 善良な市民が監視される中国社会
その情報は突然入ってきた。 私は11月12日から始まる中国最大の航空ショーを取材する為、前日の11日から広東省珠海市に来ていた。会場の下見取材を終え夜ホテルに戻ると、北京にいる同僚から「珠海市でこんな事件が起きているらしい」とSNSに投稿された動画が送られてきた。 【画像】現場では手を合わせたり涙を流したりする市民の姿も(2024年11月13日) 動画には、多くの市民が道路に倒れ血だらけになっている人や、泣き叫ぶ声の先に倒れたまま、動かなくなっている人の姿があった。また、1台の車が暴走する様子も捉えられていた。 私が最初に思ったのは「運転手が何らかの理由で運転を誤ったか?」というものだった。日本でも運転手がブレーキとアクセルを間違え暴走し、負傷者が出てしまう交通事故は、たびたび起きている。しかし、次々にSNSにアップされる動画からは、過失による事故ではないことが確実にうかがえた。 一方で「ただの交通事故でなければテロ事件か?今の中国でそんな事件が起きるのか?」、こんな気持ちを抱きながら、宿泊しているホテルから出てタクシーに乗り、現場へと向かった。 現場に近づくと乗っていたタクシーは動かなくなった。付近では交通規制が行われ、その先から救急車が次から次へと出てきていた。
規制された現場で拘束されたメディアも
「ここが現場で間違いない」。そう確信し、さらに中に入ろうとしたが、体育館の入口に立つ警備員は「一般人はこれ以上中には入れない」と私たちを制止した。 私は中に入れないのであれば、まずは目撃者に話を聞こうと考え、体育館から出てきた人たちに話を聞いた。「被害に遭ったのは50人以上」という話もあれば「100人近くがはねられた」という話もあった。ある目撃者は「十数人が死んでいた」と話すなど、現場の混乱と壮絶な状況が感じられた。 一方で、同様の取材をしていたイギリスのBBCや別のメディアの記者らが、地元当局によると思われる取材の妨害を受け、別の場所に連れて行かれたという話も耳に入ってきた。こうした事件現場では自由に取材が出来ないことは中国では多々ある。 私たちは中国外務省が発行する記者証を持っていて、本来ならばこの記者証があれば中国の法律を守っている限り、原則、取材活動は認められているはずだ。しかし、実際には多くの場面で様々な理由をつけられ、取材活動が妨害される事は珍しくない。 最近でも、北京市で下校中の小学生が男に刺された事件を取材していた際、私を含む多くの記者が、現場で何らかの理由をつけられ、取材活動の妨害を受けている。