【解説】35人死亡の無差別殺傷事件で“情報統制”か…SNSには真相解明を望む声も 善良な市民が監視される中国社会
事件翌日に発表された犯行動機
事件発生から約2時間後、地元警察が事件についての情報を出した。それによると、犯人は62歳の男で、犯行後に現場近くで拘束されたという事だった。 さらに事件発生の翌日、警察から今回の事件で死者35人、怪我人43人が出たと発表された。 また62歳の男は、事件後に自らの首を刃物で切り付け、現在は意識不明の重体となり病院で治療を受けているという。そして、男の犯行動機は「離婚後の財産分与の結果について不満を持っていた」というものだった。 これだけ多数の犠牲者や被害者が出ていることを考えると、日本では警察が犯行の動機などについて発表するのが一般的だ。だが、中国においては当局が犯行動機などについて発表することは珍しい。 さらに発表のタイミングが早く驚いた。同じ広東省の深セン市で、9月に日本人学校に通う男子児童が被害にあった事件では、今になっても事件の背景や拘束された男の動機についての情報は出ていない。当局の一連の対応からは今回の事件はあくまで「個人間のトラブル」ということを強調することで、事件を早期に収束させたい思惑があるとみられる。 一方で、男は意識不明で重体であり本人の口から直接聞けていない以上、所持していたスマホの解析などを進めたとしても、どのようにして犯行動機がわかったのか、疑問は残る。
犠牲者を悼むことさえ許されない
現場となった体育館の入り口では、事件発生の翌日から、犠牲者を悼む市民が花を手向ける姿があったが、ここでも中国当局の対応は早かった。 この場所には12日の夜から市民がやってきて、花束を手向けたり、犠牲者を追悼するためロウソクの火が灯されたりしたが、こういった追悼の動きさえも当局は伏せたいのか、翌日の朝には花やロウソクが撤去された。
「中国は世界で最も安全で、刑事事件の犯罪率が最も低い国の一つ」
事件が起きた2日後の13日に行われた中国外務省の記者会見の中で、報道官は「珠海で起きた事件は極めて悪質で、習近平国家主席も重要な指示を出した」と述べた上で「外国人の死傷者は出ておらず、中国は世界で最も安全で、刑事事件の犯罪率が最も低い国の一つ」と強調した。 しかし、世界に向けて発信する外務省の会見とは言え、自国民が一度に35人死亡し、43人が怪我を負ったこの事件で「外国人の死傷者は出ていない」という言葉を遺族や被害者が聞いたらどう思うのだろうか。