2億年前、蝶は地上を舞っていた?独で世界最古の化石発見、その新証拠とは?
地球が誕生したのは46億年前、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前といわれています。先日学術雑誌に、今まで見つかった中で最も古いおよそ2億年前のチョウ目の化石記録についての研究論文が発表になりました。 三畳紀からジュラ紀初期にまたがる地層から見つかったこの化石。実は、現在知られている植物化石から考えられる花の出現時期よりも1億年ほど早くに蝶の祖先は地表を飛びまわっていたことになります。 一体どのような環境から、その化石は見つかったのでしょうか。そして蝶の羽や体はそもそも繊細で、化石として見つかることがほとんどありません。最古のチョウ目化石とはどのような姿なのでしょうか ── 。 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、論文執筆した研究者から、特別に提供を受けた貴重な写真とともに研究内容について報告します。 ----------
蝶と蛾を含む「チョウ目(Lepidoptera)」
普段何気なく我々の周りを優雅に飛び回っている蝶。しかし、化石記録において、蝶はいつごろ初めて現れたのだろうか? 先週ある研究論文を目にするまで、こんな疑問さえ、私は持つことがなかった。 van Eldijk & van de Schootbrugge等(2018)が「三畳紀からジュラ紀初期をまたぐ地層から発見されたチョウ目の仲間」と題する研究論文をScience Advancesという学術雑誌に発表した。 van Eldijk, T. J. B., T. Wappler, van de Schootbrugge et al. (2018). "A Triassic-Jurassic window into the evolution of Lepidoptera." Science Advances 4(1). はたして化石記録における最古の蝶なのだろうか? どのような姿をしているのだろうか? このような研究を目の前にして、私の中に潜む好奇心の虫はむくむくと顔を出さずにはいられない。類は友をよび、そして、虫はムシを引きつけるようだ。 あえて“自慢”するわけではないが、私は蝶に関してそれほど知識を持ち合わせていない。これまでに昆虫の仲間を特に研究の対象としたことはない。そのため基本的な情報をとりあえずチェックする必要があった。(どのような項目をチェックすればいいのか、経験上ある程度分かる。情報を集める際のコツのようなものもある。) まず蝶はチョウ目(Lepidoptera)というグループに属す。この昆虫の一大グループには、いわゆる「蛾(moth)」の種も全て含まれる。そのため蝶と蛾の両者(虫)は、分類学上、同一のものといえる。言い換えるなら蝶と蛾は、その進化上、「共通の祖先」を太古の昔に持っていたことになる。地質年代を通し、枝分かれ・細分化が進み、今日にいたる。 ちなみに現生のチョウ目の種に目を向けると、トータルで126科、約18,000種が今までに記載されているそうだ。並み居るたくさんの昆虫グループのなかでも、今日、爆発的な多様性を遂げているものの一つだ。 そしていわゆる蛾の仲間は、なんと約16,000種にのぼる。これはチョウ目全体の実に89%にあたる。蝶の種の数はその残りで約2,000種だが、それでもかなりの数といえるだろう。こうした事実を前にすると「蝶は蛾の一部」という見方さえできるかもしれない。 そして余談だが、いくつかの文化圏・言語圏 ── 例えばフランス語、ロシア語、ドイツ語など ── において蝶と蛾の両者は、同一の言葉で表現されるそうだ。 生物学そして昆虫学上、蝶と蛾の判定や識別は、なかなかシンプルにいかないケースが多い。一般に、蛾は夜行性で特に明け方と夕方のコンビニの周りにたむろするが、蝶は昼間に野原を飛び回る。そして蛾が見せびらかすように羽を大きく広げて休む一方、蝶は羽を閉じて静かにたたずむ。こうしたイメージを多くの方が持っているかもしれないが、かなり例外のケースが蝶と蛾両方のグループに多く見られる。例えば日本各地にはアゲハモドキという、文字通り蝶にそっくりな蛾もいる。 チョウ目の進化のトレンドを探求する上で、こうした事実はなかなか興味深い。夕暮れ時に飛び回っている蝶は、もしかすると掟破りの反逆者なのかもしれない。昼間に堂々と移動する蛾は、進化上の最先端を行くものかもしれない。 そしてチョウ目に属す種の数々は、今日どうしてこれほどの多様性 ── 進化上における大成功をおさめたのだろうか? もしかすると化石記録の中において、その「起源」に関する謎を探求する上で、ヒントのようなものが潜んでいるかもしれない。