アメリカで沸き起こる「国歌論争」 NFLスター選手の起立拒否に賛否
過去にもアスリートが国歌演奏時に人種差別に抗議する事例
キャパニックの行動に対し、「国への敬意が欠けている」と怒りを露にしたフットボール・ファンの一部は、SNSなどで連日にわたってキャパニック批判を展開。キャパニックの背番号と名前が入ったジャージを自宅の裏庭で燃やし、その様子を撮影してSNSにアップする者までいた。また、一部の保守系メディアはキャパニックが8月のチーム練習で警察官の格好をした豚がプリントされたソックスを履いていた写真を掲載し、警察官に対して敬意を欠いた行為として批判した。キャパニックは、「靴下の件は事実だが、それは一部の悪徳警官に対する抗議で、警察全体へのメッセージではない」という内容の声明をインスタグラムに投稿している。 キャパニックのような社会的に影響力のあるアスリートが、社会に対する抗議として、国歌演奏時に起立しなかったというケースは今回が初めてではない。1968年にメキシコシティで開催されたオリンピックでは、陸上男子200メートルで金メダルを獲得したトミー・スミスと、銅メダルを獲得したジョン・カーロス(共にアメリカ人)が、アメリカ国歌が流れるメダル授与の際に、黒い手袋をつけて拳を高く掲げるパフォーマンスを行った。2人は公民権運動の支持者であり、アメリカ国内の人種差別に抗議する目的で国歌演奏中に拳を掲げるパフォーマンスを行ったのだ。バスケットボールのNBAでも、1990年代にデンバー・ナゲッツやサクラメント・キングスで活躍したマフムード・アブドゥル・ラウーフが、90年代前半に国歌演奏時の起立を拒否して物議を醸した。1991年にイスラム教に改宗したラウーフは、アメリカの国歌や国旗は抑圧の象徴だと主張した。 キャパニック支持を公言するアスリートも増え始めている。米女子プロサッカーリーグ(NWSL)のシアトル・レインでプレーするミーガン・ラピノーは、アメリカ代表の主力としても活躍するスター選手だ。今月4日にシカゴで行われたリーグ戦の試合開始前、ラピノーは片膝をついた状態で国歌演奏を聴いた。キャパニックの行動に理解を示すラピノーは、米メディアに対し、「キャパニック選手に対する一部のファンの行動や憎悪には納得がいきませんし、この国にまだ残る人種問題について目を背けずに議論する必要があると思います」と語っている。シアトル・レインは7日に首都ワシントン近郊で試合を行ったが、ラピノーの抗議活動を懸念した主催者側は選手入場前に国歌演奏を終了させてしまった。