自分を否定してばかりの人も自分を愛せるの?「セルフラブ」の習得方法
自分を愛せない理由
もちろん、セルフラブのコンセプトは新しいものじゃない。愛することは昔から人間性に欠くことのできない要素。ギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前384~322年)によると、自分は自分にとっての最良の友であるべき。しかも彼は、定期的に自分の様子をチェックして、セルフラブが自分の成長だけでなく、社会のためにもなっていることを確かめる必要があると言っていた。 この考え方はよいけれど、このトピックに関するガイド付きジャーナルを出版した心理療法士、シャロン・マーティン氏の言葉も好きだ。「セルフラブとは、自分を完全に受け入れて、やさしさと敬意を持って自分に接し、自分の成長とウェルビーイングを育むということです。これには、あなたが自分をどのように扱って、自分に対してどのような気持ちを抱き、どのように話しかけるかが含まれます」 マーティン氏によると、自分自身との関係は、他者との健全な関係にある特徴(敬意、思いやり、寛容、励ましなど)を全て備えていなければならない。彼女いわく、人を愛せる人には自分も愛せる。これは私に希望を与えた。私には心から愛している人がたくさんいるので、自分というもう1人の人間を愛することもできるはずだ。 私が自分を嫌うようになった理由を特定するため、私は自己啓発系ポッドキャスト『Dot To Dot』のホストで著書に『Mirror Thinking: How Role Models Make Us Human and Defining You』を持つフィオナ・マーデン氏に連絡し、自分の子どもの頃のこと、両親が不仲であること、母が愛を求めて私と兄を頼っていたことを伝えた。母からは「あなたたちだけが幸せの源」と何度も言われた。でも、彼女が得られなかったものを私たちに全部補えるわけがない。 小学校の初日も痛烈だった。私は幼少期をキプロスで過ごし、5歳でロンドン北部に引っ越した。でも、友達を作りたいと思って登校すると、ギリシャ語を話すどころか、私の名前を発音できる人さえいなかった。英語は数週間で話せるようになったけれど、この出来事で「自分はよそ者」という感覚が魂に埋め込まれたのは間違いない。 こういう幼少期の体験が自分に対するいまの見方(自分は周囲に馴染めない失敗作であるという見方)を形成したのか尋ねると、マーデン氏は「あなたは自分が仲間はずれにされていて、自分の母親が逃したものを全て与えてあげられなかったという認識を内面化したのかもしれません。でも、それは決してあなたの役割ではありませんでした」と言った。マーデン氏によると、この有害な内面化は“認知的フュージョン”によるものである可能性が高い。「認知的フュージョンとは、自分を思考や負の感情とフュージョン(融合・同一視)して、それを現実にしてしまうことを言います」 私の場合は、「私は失敗作のはみ出し者」という思い込みとフュージョンし、それを一時的な出来事として見るのではなく、一生消えない自分の側面にしてしまったというわけだ。マーデン氏によると、私の自分を愛する能力はこのフュージョンと密接に関連しているので、それを解く(脱フュージョンする)ことが自分を救うカギになる。 アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、脱フュージョンをする方法の1つ。自分のコントロールが及ばないことを受け入れて、自分の人生を改善し、豊かにするための行動にコミットするものであることから、このように呼ばれている。ACTの目的は、自分の思考や感情との関係を変えることで、自分が柔軟かつ有意義で楽しい人生を送るのを妨げる支配やパターンから自分自身を解放すること。 ACTの効果は十分証明されている。マーデン氏によると、アプリを使って自分でACTを試みるのは勧められない一方で、ラス・ハリス博士の著書『The Happiness Trap』は素晴らしい入門書。私も一度受けてみたいと思っている。パートナーが亡くなったときや自分ががんになったときにセラピーを受けたことはあるけれど、自分にやさしくなれないことについて話したことは一度もない。 でも、このようなトークセラピーは感情的にもロジスティクス的にも大変。高齢の母の介護をしながら仕事をしている私には、このような込み入ったプロセスにコミットする余裕がない。