「人を幸せにするおカネ」を研究したら「笑顔」にたどり着いた ウェルビーイングで地域を幸せにするには
人の表情から笑顔を検知し、その度合いを可視化する社会装置「エミーウォッシュ」が、地域や企業でウェルビーイングの向上に活用されている。テクノロジーと幸せの接続について考察を重ねてきたクウジット代表取締役社長の末吉さんに、笑顔あふれる地域の実現に向けた取り組みを聞いた。(聞き手 SDGs ACTION!編集部・池田美樹) 【写真】笑うとLEDライトが点灯し、除菌液が噴霧する「エミーウォッシュ」 ======================== 末吉隆彦(すえよし・たかひこ) 1992年にソニー入社。ソフトウェアプロジェクトリーダーとして、VAIO C1などのノートPC商品化に尽力する。 2004年よりソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーとしてPlaceEngineサービスを立ち上げる。 2007年にソニーCSL初のスピンアウト企業となるクウジットを設立。 現在、人工知能やデータ解析技術を活用した未来予測や因果情報分析などの事業を手がける。一般社団法人エミーバンク協会代表理事。
笑顔の可視化とデータ化に着目
――クウジットはどのような会社なのでしょうか。 2007年に設立した会社です。もともとは、私がソニーコンピュータサイエンス研究所に所属していた時代に、研究成果を社会実装する形で設立しました。初めてのスピンアウト企業でした。 当初は位置情報やAR技術を中心としたサービスをおこなっていましたが、最近の10年ほどはAIやデータ解析を核に企業の研究や新規事業支援をおこなっています。特に得意としているのは、因果関係の分析技術です。単なる相関ではなく、なぜその現象が起きているのかという因果関係を推定することができます。 たとえば、企業における製品の不良率の要因分析や、顧客満足度の向上要因分析、職場のウェルビーイング向上や離職の要因分析など、データに基づいて課題の本質的な解決につなげられるのが特徴です。また、アカデミアとも連携して、幸福度と金銭の関係性の研究なども手がけています。 私自身はもともとエンジニアやリサーチャーとしての経験がありましたが、設立当初からCEOを務めており、徐々に経営者としての役割が増えてきました。 ――現在取り組んでいる「スマイルシティプロジェクト」についてお聞かせください。背景にはどのようなストーリーがあるのでしょうか。 「エミーウォッシュ(emmyWash=笑顔センサーつき除菌液噴霧装置)」を活用し、ウェルビーイングを向上させる社会インパクトの効果測定をおこない、実証するためのプロジェクトです。笑顔あふれる街づくりに寄与することを目指しています。 現在、実証実験パートナーとして、本プロジェクトに共創いただける自治体やエリアオーナー、企業・団体等を募集しており、エミーウォッシュを無償で貸し出して、実証に協力いただく予定です。 エミーウォッシュは、人の表情を検知し、笑顔の回数を可視化できる装置です。人が前に立って手指をかざすと笑顔を判別するセンサーが起動し、目や口の動きから笑顔と判定されると、除菌液が自動的に噴霧されるという「社会装置」なのです。 社会装置とは、人と人との間、もしくは人とテクノロジーとの間で場を共有したインタラクションを明示的に促進、感知させるための仕掛け、仕組みを装置化したもののことを言います。 この取り組みの源流は2016年ごろにさかのぼります。当時、私は前職の上司でありクウジット共同創業者でもある、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長で東京大学教授の暦本純一さんが研究開発した「笑わないと開かない冷蔵庫」(ハピネスカウンター)という面白い研究に触発されて、表情インタラクションの研究を始めました。 その後、叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部長の保井俊之先生や慶応義塾大学教授の前野隆司先生など、幸福やウェルビーイングについて研究する方々と出会い、「人を幸せにするおカネ(エミー&ゼニー)を創る」研究も始めました。 具体的には「感謝最大化のお金」を表すエミーと「利益最大化のお金」を表すゼニーという概念を提唱し、人々の幸福度を高める金銭の使い道について考察を深めていきました。 そうした中で、テクノロジーと幸せをどのように接続させられるか考えるようになりました。単におもしろいデバイスを作るだけではなく、地域やコミュニティ、企業などの場で活用できるような、ウェルビーイングに資するテクノロジーを生み出したいと思うようになったのです。 そこで着目したのが、「笑顔」です。笑顔は人の気持ちを表す最もわかりやすい表情ですし、笑顔の効能はウェルビーイングにもつながります。また、笑顔が生み出す良い循環もあると感じていました。そこで、笑顔を可視化し、人々の笑顔を増やしていく取り組みとしてエミーウォッシュを開発しました。これは人の表情を検知してその笑顔の度合いを測定し、データ化するデバイスです。 これをより良い地域作りに活かそうという試みを始めたのがスマイルシティプロジェクトです。